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アポカリプシスの監視者  作者: 新堂まなぶ
第2章『抗拒』

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Log2-14//アンサンブル


 会場はアフターの時間に入り、流れていた優雅な曲はアップテンポへと様変わりした。装いを変えたり、リズムに合わせて体を揺らしたりと招待客は普段とは異なる雰囲気を楽しんでいる。

 照明の落とされた暗い室内には、派手なライトの明かりが、踊り明かすようにあちらこちらへと動き回り、燦然(さんぜん)と輝く。

 一人目立たぬように会場の隅で、壁にもたれかかっていたクリプタに、アフターパーティー仕様のドレスと黒い仮面を纏った女が声をかけた。

「私たちが今日ここに来たことを、責めないのね」

 グラスを片手に隣の壁にもたれかかった女を、クリプタは見もせずに答えた。

「……ミルザムに関する情報収集に来たんだろ? 調査は危険があるから留保するように言っていたはずだが。君たちを責めたところで、どうせ聞かないだろう? 」

 黙る女にクリプタはぼそりと言う。

「まさかアルたちが、ここまで周到に準備していたとは思わなかった」

 リズムのいい重低音が壁を伝って響き渡り、酔いの回った人々で会場は騒々しい。

 シャンパンに口をつけたクリプタの表情は仮面で窺い知ることはできない。

「あのプラントに、局長のあなたが絡まないわけはないと思っていたけど、私たちの資金源はそれだったのね」

「! セネリスの依頼か」

 アルフリーナはグラスの酒を飲み干すと、会場脇の通路を見やり、少し大袈裟に声を出した。

「ふふっ。なんだか酔ったみたい。あちらで少し休みません?」

 足元をふらつかせながら、クリプタに支えられたアルフリーナは、会場を後にした。


「応接室とは、まあ、よく言ったものね」

 部屋に入るなり正(・)気(・)に戻ったアルフリーナは、部屋の奥にさりげなく置かれたベッドを見て呆れたように言うと、ソファに腰掛けた。

「この部屋は確認してあるから話して問題ない」

 向かい側に腰を下ろしたクリプタが仮面をテーブルに放りながら言った。

「知ってるわ。さっきもこの部屋、使ってるの見たから」

「後を着けてたのか?」

「当たり前じゃない。あなたの行動を探るよう依頼されたんだから」

 短いドレス丈を気にすることなく、足を組み替えたアルフリーナは、クリプタが色々と自分たちに共有していないことがあるのを知り、がっかりしていた。

 ある程度の秘密であれば今まで目を瞑ってきたが、今回のことはメンバーに関わることでもあり、見過ごすことができなかったのだ。なによりあのプラントが絡んでいるとなれば冷静ではいられない。

 クローニング局にはさまざまなクローンの製造プラントがあるが、オメガ9のプラントが特殊だったように、他にも特殊な目的を持ったプラントがある。


 ――メビウス・プラント


 メビウスは聖宰官であるミルザム・イヨリスの管理下に置かれている。

 教会での奉仕活動を目的としたクローンを抱え、創星神(そうせいしん)アストラへの生贄としての役割をも担っていた。

「まさかメビウスで稼ぎ出した資金の一部が、私たち組織の運営資金になってたなんて。セネリスが知ったらなんというか……」

 向かいに座るクリプタは、表情も変えず答える。

「別にアルが今さら驚くようなことでもないだろう。いくら教会の管轄であっても、局の責任者である限り、メビウスに関わることは避けられないよ」

 アルフリーナは着けたままだった仮面を外すと、手で顔を覆いながらため息をついた。

「どうしても避けられないのね」

 静まり返った部屋の中で、沈黙がしばらく続くと、クリプタが口を開いた。

「組織を動かすには資金も必要だ。黙っていたことは申し訳ないが、言ったところで避けられるわけでもないだろう?」

 クリプタの言うことはもっともだった。

 組織を運営するには金がかかるのだ。

 その資金源を調達することは容易ではなく、大きな資金の流れに乗らなければ、あっという間に底をついてしまう。組織の長である限り、資金調達は常に付きまとう。

 理屈ではわかっていたが、アルフリーナたちは長年一緒にやってきて、なんの相談もないままに、重要なことが隠されていたことに耐えられなかったのだ。

「少しくらい相談してよ、仲間でしょう? ミカミは知っていたの……?」

 顔を覆った隙間から、真実を問う瞳がクリプタへ向けられた。

「知っていたよ。 今はまだメビウスから手を引くわけにはいかない。 ミルザムの情報網を使えば中枢の幹部たちとの交渉にも使える」

 確かに、資金面以外でもメビウスを利用せざるを得なかった。

 情報収集において、このプラントを利用することが一番手っ取り早い。

 しかし、アルフリーナはこのプラントをどうにかして潰したいと思っていた。

 それにはこの目の前の男を動かさねば、何も始まらなかったのだ。

「……セネリスは、自分の恩師が巻き込まれてるのではと思っているのよ。会ったでしょう? アマヨリと一緒にいた男と」

「彼女は単なる娘の代役で連れてきたんじゃないのか」

「……」

 クリプタは、先ほどまで会話を交わしていた男の顔を思い浮かべながら、アルフリーナたちが既にアマヨリを巻き込み、後戻りができなくなったことを理解した。

「それで彼女を巻き込んだのか!」

 静かに怒りに震えたクリプタは、目を見開き、アルフリーナの肩を掴んだ。

 けれどアルフリーナは動じることなく、じっとクリプタの瞳を見返すと言った。

「あのトゥレイスという男、メビウスの外部委託の医師だけじゃない。何(・)か(・)を運んでる」

 その言葉には確信が宿っていた。それを確かめるかのようにアルフリーナは視線を逸らさなかった。

 クリプタは説得するように、アルフリーナの顔を覗き込みながら訴えるように言った。

「……それを突き止めてどうする。ミルザムの悪事が公になり、我々の資金源が絶たれるだけだ。それより彼の繋がりを利用して、ノクトリアに辿り着く方が先だ」

 真っ直ぐに捉えられた瞳を逸らせば、勢いに圧倒されてしまいそうだった。アルフリーナは怒りに震えるクリプタの勢いに飲まれぬよう、腹に力を込めしっかりと怒りを受け止め、言った。

「その言い草だと彼が運んでいる物に、ノクトリアは食いつかなかったのね。

 あなたがやらないなら私がやるわ。アマヨリがうまくミルザムと接触できてるみたいだし、次に繋がるかもしれない」

「!」

 再びアルフリーナの肩を掴む力が強くなる。

「こうでもしないとあなた動かないでしょう? 資金源なら私とワサトでなんとかする。あてがあるの。ミルザムは……、メビウスはなんとしてでも私がこの手で潰したいの。クローンの解放までなんて待てない。彼を潰すだけの証拠は確実に揃ってきてる」

 アルフリーナは何一つ譲る気などなかった。ミルザムという宰官の行ってきた悪行の数々を公にし、彼を中枢から失脚させることを何よりの目的としていたからだ。

 既にミルザムと教会周りの資金源も、その流れも掌握できつつあった。

 クリプタからは同意の兆しが見えなかったが、アマヨリを作戦に関わらせたことにより、彼が無視できなくなったのは確実だった。

 掴まれた肩を掴む力がスッと抜けていくのがわかり、アルフリーナは振り払うようにしてクリプタから距離を取った。

「少し、少し考える時間をくれないか。彼女はメンバーではない。便利屋の仕事に留めておいてくれ……。頼む……」

 アルフリーナは天を仰ぎ見ると、しばらく考え込んだ。

 力なく応える組織の長を目の前にして、初めて見せた彼の弱さを目の当たりにしたからだ。

「……わかったわ。できる限り彼女は巻き込まないわよ。でも、それでも私はメビウスを止めるから」

 そう言ったアルフリーナの顔には強い決意が現れていた。その決意を前にクリプタは断ることなどできない。

「その代わり、セネリスのことは責めないで。彼はトゥレイス家を守りたいだけなの」

「……わかっている」

 二人はしばらく視線を交わし合った。そこに言葉は必要なく、互いの立場も信念も十分すぎるほどに理解していたからだ。


「それにしてもアマヨリ、えらく怒ってこの部屋を出ていったけど、あなたたちここで何をしていたの?」

 突かれたくない質問を突然に刺してきたアルフリーナにクリプタは、一瞬どきりとしたが、その感情のブレを読み取られないよう、クリプタは冷静に返事をした。

「組織の活動の許可をしただけだ。もちろん私の指示する案件のみでだ。あくまでアマヨリの好奇心を落ち着かせるためのもので、さっきも言ったとおり便利屋業務の範囲でやらせてくれ」

 目前のアルフリーナの顔はどこか疑念を孕んだような、腑に落ちていない顔をしていた。そう。と、ただ一言だけを残すと、静かに部屋を出ていった。



 アルフリーナがクリプタと密談していた、その頃。

 ミルザムは横に控えていた三人の女性たちをエレノアに扮したアマヨリへ紹介していた。着飾った女性たちは仮面を着けたまま、ただ静かにミルザムの言うことに従っているように見える。一人一人挨拶を済まし、三人目の女性が前に出たときだった。アマヨリはとっさに声が出そうになるのを押し殺した。

(ヘリヌール!!)

 恐る恐る、仮面の奥の瞳を覗くと、子供の頃からずっと慣れ親しんだ、あの穏やかで優しい瞳がそこにあった。

(バウンドヴェイルをつけていない? オリジナルなの?)

 ヘリヌールはクローンではなく、人としてここにいるようなのだ。

 ヴェイルを着けずにここにいる。

 少しの可能性にアマヨリの鼓動は高鳴った。

 色々な考えが頭を巡ったが、アマヨリの知っている情報だけでは、答えを見つけることもできない。ひとまず情報収集することに頭を切り替えた。

 ミルザムの後ろに並ぶ彼女たちは表情ひとつ変えずに、ただ静かに佇んでいる。

 その様子を見るだけで、彼女たちが自分の意思でそこにいるわけでないのはわかる。


 聖職者という表向きの仮面を被るミルザムは、慈悲深そうな顔をして少女たちの紹介をしていく。

「彼女たちは教会に勤める身だったが、私の養子として迎えた。最近ではドミニオンで起きたテロで親をなくした子供たちの面倒も見ている」

「それはなんと慈悲深い。我々も医療で支援できればと思いますので。ぜひお声がけください」

 当主は始終ミルザムの機嫌を気にしながら、大袈裟な感情で振る舞っている。

「トゥレイス家には頭が上がらんな。例の方を紹介する件はまた別の機会でお願いしたい。複雑な事情があるのだよ。すまないがそろそろ私は他を回るよ」

 ミルザムがこの場を去ろうとしたとき。

 アマヨリはヘリヌールの実態を確かめようと、声をかけた。

「ミルザム様、大変烏滸(おこ)がましいことかもしれませんが、わたくしは友人を探しておりまして、歳もご令嬢方と近いようなので是非もう少しだけお話をさせていただけないでしょうか」

 社交パーティーの場で、体裁を気にしたミルザムは、アマヨリのお願いを無下にするわけにもいかず、少しの時間を与え女性たちを解放した。

 当主は言い出したアマヨリに驚いたが、娘同士の強固な結びつきを逃すまいと、大手を振って送り出してくれた。


(なんとかヘリヌールと二人になれないかしら。本人かどうか確認しないと)

 その場を離れるとき、ミルザムが彼女たちに送った念を押すような視線は、どこかゾッとするものがあった。

 とにかく今は、この場を離れて話すことが先決でアマヨリは急いだ。

 喧騒にまみれた雑踏の中を抜けて外へ出ると、若い女性たちは目立つのか、何度も男性たちに声をかけられた。しかし、先ほどのクリプタの子供扱いがよほど響いたのか、アマヨリは淑女らしく振る舞い、男達の誘いをさらりとかわした。

 屋外は静寂に包まれていた。館からうっすらと聞こえる小気味の良いリズムと、漏れ出した派手な照明が静かな庭園との間を隔てる。

 屋外のテーブルには喧騒に疲れた人々や、こっそりと抜け出した男女で埋まっている。アマヨリたちは照明も届かぬ寂れたベンチに腰掛けた。

 ところが、一向に誰も言葉を交わそうとしないので、アマヨリは警戒を解こうと、にこやかに話し始めた。

「私ね、友人が少ないのであなたたちとも仲良くなりたいの。私は食べることと、体を動かすのが好きなのだけど、皆さんは何か趣味などはあるの?」

 当たり障りのない質問に、二人の女性が少し興味を持ったのか話し始める。

「私は、バイオリンを習っています。習い始めたばかりで上手くはないのですが」

「まあ! 楽器を演奏できるなんて素敵ね! 私は……」

 アマヨリはうっかり自分のことを話してしまったことに気がついた。

 エレノア役をやっている以上、彼女のことを話さないといけないのだ。

「えっと、私はピアノが得意です。それなら今度ご一緒に演奏会なんていかがかしら」

「演奏会……」

 顔を見合わせるようにした彼女たちの表情が曇ったのが暗闇でもわかった。

(やっぱり。彼女たちには自由がないんだ)

 当たり障りのない会話をしばらく続けていると、ずっと閉口していたヘリヌールが口を開いた。

「ミルザム様は立場上、関わり合いになる方も限定的になりますから、お約束はできませんが、またどこかの社交界でお会いできればご一緒させてください」

 久々に聞くヘリヌールの声だった。

 じっとアマヨリを見つめたその眼差しは、間違いなかった。

 彼女もまた、アマヨリに気づいていたのだ。

(ヘリ姉! 私はここにいるよ!)

「あ……」

 ヘリヌールは言いかけて、咄嗟に口をつぐむ。

「それなら私、この後ミルザム様にお願いするわ。こんな素敵な方々と知り合えたんですもの! 社交界だけなんてもったいない。ミメアさんもヘゼさんもそう思いませんか」

 三人は幾度となく顔を見合わせ、どう返事をして良いのかわからない様子だった。

 しかしアマヨリはそんなことは意に介さず、力強く続ける。

「大丈夫、私も小さな頃からお世話になっている方だもの。そんなケチなこと言わないわ!」

(ううん。絶対に言わせない……)

 目と目を見交わした彼女たちの瞳からは、さっきまでの虚ろさが和らいだのがわかる。ヘリヌールはアマヨリの手を取ると今にもこぼれ落ちそうな涙を、レースのグローブで拭い、伝えた。

「ありがとう。エレノアさん」


 パーティーもお開きとなり、会場の前は送迎のゼルグライドで列を成した。

 アマヨリは初めてのことで、体の各所が悲鳴をあげていたがこのまま帰るわけにはいかなかった。

 セネリスたちから聞いていたミルザムの実態は、ヘリヌールたちの身の安全を担保できるものではなく、もう一踏ん張りして彼との接点を持たねばならなかったのだ。

 建物の周りには要人警護の兵たちが並び、その動きを見ればミルザムの乗り込むゼルグライドはすぐにわかる。

(あれね!)

 先回りするように、警護の兵の間をすり抜けたアマヨリは、ゼルグライドの前で待ち伏せた。警護の兵たちは少し警戒しているようだったが、会場から出てきた少女をすぐに排除するまでには至らなかった。

 少しすると、すでに仮面を外したミルザムとヘリヌールたちがこちらへ向かってきた。

「ミルザム様、エレノアでございます」

 顔を知られるわけにはいかず、仮面をつけたままアマヨリは声をかけると、驚いたようだが、ミルザムは聖職者の顔を忘れなかった。

「エレノア、こんな寒い中待っていたのかい。一体何事かね」

 外はすでに凍るような寒さだった。

 会場にいたときは庭先まで空調が行き届き、ドレスでも気にならなかった。

 厚手のコートを羽織っていてもすぐに体が冷えてしまう。

 けれどアマヨリは、ヘリヌールを見つけた嬉しさと、ミルザム聖宰官という中枢の人物と接触するという重要な役割に高揚し、寒さなど忘れていた。

「先ほど、ご令嬢方とお話をさせていただきましたら、楽器を演奏なさると聞きまして。わたくしもピアノを習っていますので、近々一緒にアンサンブルでもと。なかなか趣味の合う方とお話しする機会もなかったので、今日はとても楽しかったのです」

 並び立つ警護の兵の間から、次々と会場を後にする招待客がチラチラとこちらを見ながら通り過ぎてゆくのがわかる。

「なるほど……。それは名案だ。この者たちも他に友人がいなくてね。近々招待しよう、アンサンブルなら私も参加できるかな?」

 アマヨリは満面の笑みで返事をした。

「ミルザム様もご一緒なら楽しくなりそうですね、ご招待楽しみにしておりますね」


 帰りのゼルグライドの中でアマヨリは疲れ果て、眠りこけていた。

 緊張で前日はほとんど眠れていなかったこともあり、乗り込んでセネリスと軽く会話をしてから、あっという間に深い眠りについていたのだ。

 次に目を覚ましたときには、見慣れない照明と天井に驚いてベッドから飛び起きた。セネリスに抱えられたのか、ワサトに引き摺られたのかは、定かではなかったが、アジトへ帰ってきたことだけは理解できた。

「どうして、アジトが変わっているの……」

 アマヨリがセネリスと稽古をしている間に、ワサトが引越しを進め、すっかり入れ替わっていた。

 以前の港町とは異なり、帝都の外れに位置する中層階位の多く住む、閑静な住宅街。子供のいる家族層も多く、雑多な港町のアジトに比べると正反対の場所だ。

 あまりの変わりように、アマヨリは少し不安を抱え、戻りたいという思いが湧いた。新しいレモンイエローの壁紙に、前オーナーの好みが残る白塗りの家具。

 木目調の格子窓。以前の部屋にはなかった雰囲気が不安な気持ちを和らげた。

 ワサトいわく、高等院に通う学生用シェアハウスという体になっていて、人の出入りを気にする必要はなさそうだった。

「それにしても、やるじゃんヨリちゃん〜」

 スカイックの整備をしながらワサトは、隣でダンベルを持ち上げるアマヨリを褒めた。ガードの硬い相手をいとも簡単に落としたことで、アルフリーナにも何を言ったのか詳細に尋ねられた。

「まだこれからだよ。招待もまだトゥレイスさんから連絡来ないし、それに当日は本人がいかないと……」

 約束を取り付けたものの、仮面をつけることはもうできない。

 エレノア本人を連れて行かねばならないのだ。

 幸い、当主は乗り気でエレノア自身を行かせる気はあるようだ。

 あとは、部屋に篭りきりの彼女をどうやって連れ出し協力を取り付けるかが問題だった。

「エレノアをとにかく説得しなくちゃ。それからじゃないと」

「まぁ、そうだよな。そこが動けないんじゃ、ほんとにヨリちゃんがいくことになるねぇ……」

「私、ピアノなんて弾けないよ……」

 無理もないと、苦笑いを浮かべたワサトだったが、今から意気消沈するアマヨリの尻を叩くように付け加える。

「俺たちはヨリちゃんでも、エレノア本人でもいいから、屋敷の中に盗聴器を置れば問題ないよ」

「うう。それはつまり私が最悪ピアノを弾けるようにならないといけないって、ことだよね。それはさすがに無理だよ〜!」

「ははは、だよねぇ。とりあえずトゥレイス家にいく日をセネリスに調整してもらおう」

 アマヨリはセネリスとの特訓の日々を思い出し、次はピアノになるのか、とセネリスの不敵な笑みが脳裏に浮かび、げんなりした。


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