Log1-03//永遠の約束
「貸して、今から読むから聞いていてね」
アマヨリはソリスから本を受け取ると、声の調子を確かめながらページを捲った。
昔々のお話です。
あるところに捨てられた星を拾い集める者がいました
その者は星を創ることができず、
星を創る者たちから不要な星を集めていたのです
いつものように星集めをしていると、
赤い大地の続く星と黄金に輝く星がありました
赤い大地の星は生まれたときからなんでも燃やしてしまい、
黄金に輝く星は輝くだけで何の役にも立たない星でした
ある時星を創った者は言いました
これは失敗だった、すぐに壊してしまおうと
それを見ていた星を拾う者は言いました
あなたの役には立たないが、赤い大地は温かく、黄金の輝きは闇を照らす
ならばその星はくれてやろう、と星を創った者は言いました
星を拾った者は喜び、赤い大地の星と黄金に輝く星を手に入れました
そして、二つの星を大切に並べました
それを見た星を創った者は、
灰色に輝く大地の星も、退屈な星だと置いてゆきました
星を拾った者は、星達に涙を流して言いました
灯火を絶やさなければ、それが誰かを照らす光になるのだと
灰色の星にはたくさんの涙が降り注ぎ、
やがて青い星へと変わってゆきました
しばらくすると、星達は自分の役割を見つけ、
灰色の星は、涙の海をたたえ、
木々を創り美しい青い星となりました
赤い色の星は、逞しく燃える太陽となり、
青い星を温かく包み込みました
黄金色の星は、煌々と輝く月となり、
青い星を優しく照らしました
あまりの美しさに星を創る者達は憧れ、
次々に青い星に降り立ったのです
その星からは、赤く燃える太陽と黄金に輝く月が見えました
青く澄み渡った日もあれば、
緋色に染まる日も、闇を抱く日もありました
星を創った者達は、星達を捨てたことを大きく後悔しました
この美しい星から、ずっと煌めく星々を眺めていたいと願い、
ある者は海を泳ぐ魚に、ある者は大地を駆けるオオカミに、
そしてある者は空を羽ばたく鷲へと姿を変え、生命の礎となりました。
そして、星を拾う者は、いつまでも星々を見守る星神となったのでした
アマヨリは読み終わると、ふぅっと大きく息を吐いて絵本を閉じ、緑の床にゴロンと横になった。
「素敵なお話でしょう、私この話大好きなの。ソリスはどう思う?」
「本当にこの世界がこのように作られていたら、面白いのかもしれませんね」
ソリスの当たり障りの無い《《回答》》にダイアンも付け加えて言った。
「だとしたら随分でっかい神様だよな、もしかしたらこの星は神様の鼻くそで出来てるんじゃないか〜」
そして、隣で余韻に浸るアマヨリに向かって、鼻に指先を突っ込んで口元をニヤリと歪ませた。
「えー、何それ〜。ダイアンって全然、ロマンチックじゃない!」
アマヨリの隣で寝転んだダイアンは、彼女の不満そうな顔をまじまじと見て、指先でアマヨリの鼻を軽く持ち上げた。
「ロマンチックじゃなくて悪かったな。そんなに鼻息荒いと上に向くぞ」
「むっ、向かないもん。ダイアンだってそんなに意地悪ばっかだと目が釣り上がるよ!」
そう言って、アマヨリはダイアンの目を両手で引っ張りあげた。その顔を見たアマヨリはたまらず、ケラケラと声をあげて笑い転げる。
よく手入れされた緑の絨毯は柔らかく、いい匂いがして気持ちがいい。緑の絨毯に顔を埋めるようにダイアンもつられて笑い声をあげた。
二人の笑い声が部屋の中に響くと同時に、ソリスが急に立ち上がった。
「局長がそろそろ、こちらに来るようです」
「ええー⁉︎」
ダイアンとアマヨリは飛び起きて顔を見合わせるなり、そそくさと来た道を戻ることになった。幸いリラ局長は部屋の入り口で他の職員と立ち話をしているようだと、ソリスから教えてもらい、二人はなんとか落ち着いて点検口まで戻ることができた。
道中、息も切れ切れにダイアンは、今までの出来事を整理しながらアマヨリに尋ねた。
「前から聞こうと思ってたけど、そのヴォイドリンクはどうやって入手したの?」
アマヨリはバツが悪そうに答える。
「えっと、クリプタの執務室の引き出しから……」
「まさか盗んだの⁉︎」
「ち、違うもん、借りたんだよ! 今度、呼ばれたらちゃんと返そうと思ってるし」
ダイアンは大きなため息をつきながら、あきれた口調でアマヨリを叱った。
「クリプタにバレたら懲罰室行きだぞ、さっきも言ったけど、アマヨリは危ない橋を渡りすぎだよ。なんでもっとおとなしくできないんだ」
ダイアンは、叱っているうちに何だか毎回振り回されていることに気が付き、心配事が尽きないアマヨリに対してムカムカとした気持ちが湧き上がる。
一人でどんどん先に行ってしまうのを止められず、やっと追いついたと思ったのに。
目の前でいつもアマヨリの手を掴み損ねてしまう。
まるで鬼ごっこでもしているかのように自分の手なんてスルリと簡単にすり抜けて、気がつけばまたどこかへ逃げていってしまう。
おまけに知らない少年に大切なものまで預けて。
ダイアンの心はざわめき立って落ち着かなくなった。
アマヨリは少し反省したのか、さっき叱ったときよりもしょんぼりとしながら言った。
「ダイアンは、ダイアンは、この部屋の外に何があるんだろうって考えないの?」
「……」
いつものように、ごめんなさいと反省の弁が返ってくると思っていた。思いもよらない質問で返されたダイアンは、言葉を詰まらせる。ここにいる自分たちは人形遊びをしていても、ドールハウスの外に何があるのかを想像できない。
あの日、アマヨリが開いた管理エリアの扉の先を見つけてしまってからは、この疑問から逃れることはできなくなっていた。
「ソリスがいた場所と同じようなところがきっと、他の扉の先にあると思うの! ううん。もしかしたらもっと違うものがあるのかもしれない!」
アマヨリの紫紺色の瞳は、キラキラと輝きを取り戻し、俯いた顔はいつの間にか前を向き、先ほどの悲しげな表情は消えていた。
「私ね、星神様が作ったこの星が青いと言われている理由を知りたいの。だって涙って透明でしょう?」
「確かに、創星の神様が創った世界って言うけど、本当はこの絵本みたいに星神様が創ったのかもしれないね。案外、創星神は悪者かもしれない……。星を捨てているし」
日課で教わる世界創生の話はダイアンもアマヨリも好きでなかった。ここで生活するうえでこの話はとても重要なことだったが、絵本に描かれているような星神はおらず、悪として存在し、その代わりに〝創星神〟《そうせいしん》という存在を神として敬うように言われるからだった。
「そうだよ、わたし星神様が星辱者なんて絶対信じない!」
「うん、星を滅ぼすのは創星神のほうだよね」
ダイアンもアマヨリも、アルダナリから世界創生の話を聞いたとき、この絵本と全く異なる話だったため、最初は日課で教わる話を信じようとしなかった。けれど、それはすぐにクリプタによって修正され、この絵本が〝ファンタジー〟であること、そしてこの本の内容を他に口外してはならないことをきつく教えられた。
ただ、クリプタはそこに一言付け加えて、「大切な人にだけ見せなさい」と言ったのだ。だから、アマヨリがソリスを特別視したことで、ダイアンの心はひどく動揺した。けれど同時に、アマヨリが信じている絵本の世界の話を誰よりも理解し、共感できる唯一の相手でありたいと思う気持ちも芽生えたのだった。
「海を泳ぐ魚と大地を駆ける狼、空を羽ばたく鷲。この部屋の外の世界にあるのかな? 星神様もいるのかな?」
「うん。あるよ、きっと!」
ダイアンは勢いよく返事をすると、アマヨリは満面の笑みでこう言った。
「ダイアンなら一緒に見つけてくれるよね?」
「約束する?」
「うん!」
アマヨリはダイアンの前に小指を立てて見せるとダイアンも同じように小指を立てて絡ませた。これは二人で約束事をするときのルール。
アマヨリが教えてくれた二人だけの秘密のサイン。
「指きり〜げんまん〜」
声をそろえて呪文のように唱えると二人は楽しそうに笑い合った。
♢♢♢♢
遮光室の中で、青白く光るエアビューには、各所の映像記録が大量にリストアップされ映し出されていた。いつもの調子で白衣姿の男は尋ねる。
「リラ局長、例の研究室のセキュリティ記録が更新されていますが……、ご覧になりますか」
特殊マテリアル製の壁に映り込む複数のエアビューを一緒に覗き込んだリラ局長は、気味の悪い笑みを浮かべながら白衣姿の男へ視線を送る。
「ククク、アルファゼロですか……、まぁしばらく様子を見ましょうか。取り扱いは厳重に」
「承知しました」
そう言って男はかしこまると、羅列された映像記録を跡形もなく消し去った。
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