Log1-17//責任
「レンユウごめん! 髪を縛るの手伝って」
アマヨリは慌ただしく朝の身支度をしていた。髪を止めるゴムを渡されたレンユウは面倒くさそうに、アマヨリの長く伸びた髪に櫛を通しながら鏡越しに言った。
「もー、アマヨリ髪少し短くしたら? 随分伸びたよ、ほらもう腰まである」
「うーん。長いのが似合うって言われたから切れなくて」
申し訳なさそうに顔を下に向けると髪を結っていたレンユウは、じっとして! とアマヨリの頭を定位置に引っ張った。レンユウは少々ダイナミックで大雑把なところはあるが、手先は意外に器用で、いつもアマヨリの髪を好きなように結ってくれた。
ただ今日はアマヨリが寝坊をしたので、そうもゆっくりとはいかずふわりと癖毛がかった髪を簡単にとかし一つ結びに仕上げてくれた。
「あとどのくらいだっけ?」
「二〇か月くらい……」
「長いな……」
レンユウはボソリと呟いたつもりだっただろうが、アマヨリにはよく聞こえていた。気分は沈み込む。
それもそのはずで、ダイアンと離れてから二年近くが過ぎようとしており、その間にヘリヌールも十五歳を迎えてここを去っていた。そしてあと数日後にはテーヴァもいなくなってしまうのだ。
「ねぇねぇ、アマ姉! 見てー」
「私も〜!」
ダイアンが抜けてから連れて来られた二人はまだ幼く、日常生活を忙しくさせる。二人にはアルダナリ達がつきっきりで面倒を見ていたが、ここでは皆で面倒を一緒に見るのがルールだ。クバトとファイと名付けられた子供たちはアマヨリやレンユウによく懐いていた。時間ができれば一緒に過ごし、毎日二人の世話でアマヨリは、ダイアンのいない日々を慌ただしく過ごしていた。
「二人とも上手に描けたね」
クバトから似顔絵を描いたであろうデータが、アマヨリのエアビューに映し出されている。髪と目は紫と青で塗られており、隣で一緒に見ていたレンユウがアマヨリを描いたのかとクバトに尋ねた。
「うん! 僕アマ姉の目の色すごく好きなんだけど、ファイは怖いっていうんだ」
「ん? 怖い?」
レンユウは顔をしかめて、ファイを見ると、少し申し訳なさそうに顔をすくめて言った。
「だって、この前教わった神様を飲み込んじゃう星辱者みたいなんだもん」
レンユウは少し驚いたが、すぐに笑い飛ばしてファイを安心させた。
「アストラ神の教義ね、確かに教材に載ってる挿絵と似てるけど、色が同じだからっ
て悪者にしたら可哀想よ」
ここでは、アマヨリの持つ絵本の神話のように星神は神ではなく〝星辱者〟つまりは星を滅ぼす者として教えられていた。当然、絵本を読んでいるアマヨリはその教義を全く信じておらず、星神の存在を信じていた。
けれどここではその話はクリプタから禁止されていたために、アマヨリとダイアンだけが知る話となっていたのだ。
幼い子供の想像力に感心していたアマヨリも、二人に笑顔で答えた。
「それじゃあ、今日は補給食残したら飲み込んじゃうよ!」
クバトとファイはお互いの顔を見合わせると、一緒にケタケタと笑い声を上げた。
「ねえ、テーヴァのことなんだけど」
就寝前に珍しくレンユウが真剣に話を振ってきたので、アマヨリはベッドシーツを張り替える手を止めた。レンユウは少し言いづらそうに、ベッドの上で足をバタつかせながら次に繰り出す言葉を考えているようだ。アマヨリはなんとなく自分から話の先を進めたほうがいいと感じて、レンユウの隣に座りこう言った。
「レンユウのおしゃべりが止まるなんて珍しいね。テーヴァに何か伝えたいことがあるの?」
レンユウは少し俯きながら、左右の足の指を交差させながら頷く。アマヨリはダイアンと別れた日の自分と、レンユウを重ねた。
けれど、レンユウと重ねたその気持ちは、自分のものとは違うことを知った。
「もうみんな気づいていたと思うけど……。テーヴァのこと……好き……なんだよね」
「うん、テーヴァはすぐ怒るけどいいやつだよね。私も好きだし」
レンユウは少し呆れたような、心配するような口調で言った
「アマヨリ……、テーヴァとダイアンの好きってあんたの中で同じなの?」
「え?」
好きという感情に大きい小さい、多い少ない、そんな優劣をつけることなど考えたこともなかった。レンユウの問いに、すぐに答えることができなかったアマヨリは、誰かの方が好きという感情は、ずっと一緒に育ってきたメンバーに対して、はっきりと言葉に出せるものではないと考えていた。
レンユウがなぜ、好きという感情を計ろうとするのか理解ができなかった。
「私そんなこと考えたことなかったよ。だって……か、カゾクだよ」
「カゾク? なにそれ。ってゆうか、あんたの好きはダイアンも、私も、テーヴァも同じなのね……。ハァァ」
レンユウは額に手を当てながら、呆れていた。
アマヨリは、家族という言葉が伝わらず、あの禁止図書をみんなに共有できないことを悔やんだ。なぜレンユウにこんなにも呆れられてしまうのかと。
そんな気持ちを察するかのように、レンユウは続けた。
「あのね、好きっていう気持ちには色々あるのよ。毎日その人のことが頭から離れなくて、会いたくて、会いたくて好きって気持ちが止まらないの! も〜こんなとき、ヘリ姉がいてくれたらなぁー」
会いたくて、会いたくて好きって気持ちが止まらない。
未だかつてそんな気持ちになったことがあるだろうか。隣で熱弁しながら一喜一憂するレンユウは、どこかキラキラとしたものを纏っているようにも見える。その纏いを翻せば、すぐにでも闇を纏い返せるような勢いさえもある。
アマヨリは、自分にはまだその纏いを、持つことができていないのだと思った。
「ごめん、私わかってなくて」
「いいよ、アマヨリもきっとこれから、見つけられるよ。私はそれがダイアンだと思うんだけどなぁ」
「そうなのかな」
「絶対そうだよ。ダイアンは少なくともそうだったよ」
皆より幼いときから一緒にいるダイアンは、もしかしたら他のメンバーから見たら特別に映るのだろうとアマヨリは考えていた。少なくともダイアンのそんな纏いは見たことがないし、いつも小言やガキ扱いされているものだから、レンユウの見立ては全く間違っていると思ったのだ。
「テーヴァに好きって言いたいけど、言ったところでお別れだしなぁ」
〝好き〟を伝えると一体なにが起こるのだろう。ふと、考えてみるが誰も答えを教えてくれる人はおらず、アマヨリはただただ未知の領域を、想像するしかなかった。
♢♢♢♢
「我、創生の神に誓う。 生誕の祈り、ここに捧げん。 創生神の守護を賜り、 星の器となりて、 星の理に従わん」
祝詞が読まれると、ついにテーヴァとの別れの日がやってきた。レンユウは一晩中泣きはらして瞼を真っ赤に腫らしている。アマヨリには慰める言葉もなく、悶々とした時間を過ごすしかなかった。
テーヴァは寂しそうではあったが、新しい生活を楽しみにしているようで生き生きとしている。きっと何年かしたら、レンユウのこの想いなど知らずに、ここでのことなど忘れてしまうのではないかと思うほどだった。
「おい、レンユウ泣きすぎじゃないか?」
「泣いてない! あんたのためになんか泣かないから」
レンユウはテーヴァから顔を背けると、テーヴァはレンユウの額に自分の額をコツンとつけた。みるみるとレンユウの顔は紅潮し、瞳からは大粒の涙が次から次へと溢れてくる。テーヴァは少し困ったような顔をした。
けれど、テーヴァはレンユウの顔を覗き込んだまま、今まで見せたことのないような優しい顔をして言った。
「向こうで待ってるよ」
その言葉と共に、顔を上げたレンユウは笑顔で頷くと、テーヴァは安心したように部屋を去っていった。
アマヨリはその瞬間を、まるで世界が二人を中心に動いたように見えた気さえした。
二人でそれを纏うとこんなにも美しいのだと、アマヨリの心は震えた。
その夜、アマヨリはレンユウにこんな提案をした。
「ねえ、テーヴァに好きって伝えに行こうよ」
ベッドに突っ伏していたレンユウは、アマヨリの突然の提案に思わず顔をあげる。
「どういうこと?」
何度か聞き返したが、アマヨリはあっけらかんと、テーヴァを追いかけると言い出した。あまりに突拍子もない提案に、レンユウは自分を励ますために言っているのだと、真面目に取り合わなかった。
アマヨリは、パジャマを脱ぎ捨て制服に着替えると、ベッドの下から靴下を引っ張り出す。
見覚えのないヴォイドリンクが靴下から出てくる光景は、どこか珍妙にして滑稽なものだった。
アマヨリは慣れた手つきでヴォイドリンクを反対の腕に身につけると、レンユウの手を取った。
「行こう!」
テーヴァ達が向かうゲートはクリプタの部屋の先にあることを、ダイアンとの探索で知っていた。ダイアンとの約束は時間の経過と共にアマヨリにとって薄弱なものとなっていた。
あの方法ならいけるかもしれない。と、以前ダイアンが実行したやり方で、アマヨリはレンユウと転送荷物に紛れ込み、まんまとエリアを脱走した。
しかし、到着した先は以前ダイアンと来た場所ではなく、巨大な倉庫の中のようだった。
「ここどこ……?」
「ちょっと、どこってどういうこと?! これ帰れるの?」
レンユウが真っ青になっている隣で、アマヨリも真っ青になっていたが、今さら引き返すこともできずにいた。アマヨリとレンユウの気持ちは二人の判断を狂わせる。
なにも知らないレンユウを巻き込んでしまったことを、アマヨリは激しく後悔し始めていた。
「そのまま倉庫にぶち込まれるとは思わなかったけど……まさか他にもこんな場所があるなんて。アマヨリは何度か試したの?」
「うん、一度だけ……」
本当はなん度も色々なところに行っている。とはとても話せなかった。とにかく今はテーヴァを見つけようと、倉庫らしき中をコソコソと歩き回り出入り口を探した。
巨大な倉庫内は深夜帯のせいか人気はない。見上げるほどの大型コンテナが所狭しと置かれ、それらの隙間に隠れながら移動をするのは簡単なことだった。
「もう来ちゃったから、目的を果たすしかないね!」
レンユウは最初、不安がっていたものの、引き返せないとなれば後は進むのみとばかりに気持ちを切り替えていた。いつの間にかレンユウがアマヨリを引き連れながら倉庫内を見回るほどに。
しばらく歩き続けると、出入り口らしき扉が視界に入ってきた。二人は喜んで扉へ走り寄る。
――ピッ
アマヨリは、扉のセキュリティが反応する音を聞き逃さなかった。
慌ててレンユウの腕を掴み、荷物の影に小さくなって隠れた。
薄暗い地面に光の影が長く伸びてくると、少し怒ったような口調で女の声が聞こえてくる。
「ねぇちょっとぉ!」
どうやらもう一人、男もいるようだ。
「ね〜お願い。ちょっとさ、今夜一緒にご飯でもさっ」
「嫌よ」
「え! 即答……涙」
何か交渉ごとをしているような会話。
アマヨリ達は緊張しながらも、しっかりと聞き耳を立てて会話を盗み聞いた。
「だってあなたと関わると、私までトラブルに巻き込まれるもの」
「大丈夫! 絶対僕が君を守るから〜!」
「うーん。そこまで言ってくれるなら少しは考えるけど……」
「ほんと?! はい、これを受付で渡して。軍の警護付けてくれるから。一緒に入局許可証のコードも転送しておくよ」
地面に映し出された影には、なにやらデータを送り合う姿がくっきりと浮かぶ。アマヨリは息を殺しながら、レンユウの鼓動が聞こえてくるたびに、自分の鼓動も漏れてしまわないか緊張で体が震えた。
「はぁー。わかったわ。あそこむさ苦しくて嫌いだけど、許可証まで渡してくれるなら」
「俺の部屋、高層階だから眺めが最高なんだ。ジムもあるんだぜ? 施設も色々案内するからさ、そう嫌がらないで〜〜」
「いいわよ。じゃあ、週末にね♡」
上機嫌で男は再び入り口から出ていった。が、女はまだ倉庫内にいる気配がする。
女は入り口の扉が閉まったことを確認するや否や、拳を突き上げ、喜びの感情を見せた。薄暗い倉庫の中は時折、どこからか生暖かい風が吹き抜けて、独特の匂いを振りまいた。アマヨリにはその空気が、耐え難く気持ちの悪いものだった。
女は、声を顰めてどこかと連絡を取り合っている。
「こうも簡単にいってしまうと、メビウスの必然性を肯定してしまうわね……」
すぐに端末の操作を終えた女は、束ねていた髪をおろし、ため息をついたようだった。聞き慣れないコツコツと何かを鳴らしているような足音。だんだんと近づいてくる気配。もうどうにでもなれという気持ちでアマヨリは強く目を瞑った。
「……誰かいるようだけど? この時間帯、ここは立ち入り禁止よ。五秒以内に出てきなさい」
コンテナの奥を覗き込むように女は、縮み込み小さく丸まった二人の人影に話しかけた。後ろを見れば袋小路で逃げることもできない。走って逃げたところで袋の鼠だ。
アマヨリはとうとう観念して、そろそろと立ち上がり、おそるおそる女の前に出た。
「ごめんなさい……遊んでいたら道に迷って……」
渾身の言い訳を並べてみたが、虚しくも大人に通用するはずもなく、その言い訳はすぐに正される。
「道に迷ったもなにも、このフロアにこんなに簡単に子供が入れないはずだけど? それに見かけないお嬢さんたちだこと」
暗がりでよくは見えなかったが、目の前の女がアルダナリではなく、踵の尖った靴を履いていて、嗅いだことのない、記憶にまで染み付いてしまいそうな匂いがすることだけはわかる。
アマヨリは結局、正直にここまできた経緯をあらいざらい女に話すことになった。
とにかく会いたい人がいること、帰り道がわからないことをレンユウと共に話した。女は同情を示してくれたものの、おろした髪を再び束ねながら、少し面倒くさそうに言った。
「オメガ9の子達ね……、確かにできなくもない脱出方法だわ。……これは至急で見直しが必要ね。それにしても、出たものを追ってくるなんてね……」
アマヨリもレンユウも、少しは同情を示してくれた女から、会わせてあげる。という言葉が返ってくると、淡い期待を抱いたがそれはすぐにかき消された。
「私から言えることは一つ。やめておきなさい。お嬢さんがたが望むような回答は得られないと思うわよ。それにこれ、最初に会ったのが私でよかったわね。他で見つかれば、ちょっとわからなかったわよ」
「それはどういうことですか?」
きょとんとした顔でレンユウが尋ねると女は少し言いづらそうに答えた。
「まぁ……平たく言えば、お仕置きが重くなるってところかしら。他が来る前に連絡するからこのまま隠れていなさい」
二人は女に言われるがまま、コンテナの影に座り込み女が戻ってくるのを待った。
けれど、しばらくしてそこに現れたのは、濡れた髪を乱し、シャツ一枚に短パン姿という、着の身着のまま、駆けつけたクリプタだった。
「いったいなにがどうなっているのか……。君が見つけてくれてよかった。すまない、ありがとう」
「ふふふ、高いわよ〜」
クリプタの後ろで女は手をひらひらと振りながら、何かを要求している。クリプタは濡れて乱れた髪をかきあげ、軽く眉を顰めたが口元は笑っていた。
「君って人は……」
先ほどの男とのやり取りとは違う、もう何度もこのやりとりを繰り返しているような親しい間柄のようだった。クリプタがこんな雰囲気を見せるところは、今まで見たことがない。アマヨリは、クリプタの別の一面を垣間見た気がした。
「どういうつもりだ、これは規則違反だ」
帰還するとともに、クリプタの説教が始まった。深夜であったが時間など関係なく、淡々と話しているが、いつにも増して怒っているのがアマヨリにはわかる。
「ごめんなさい。私がレンユウを連れ出しました」
「違うの! 私がテーヴァに会いたいって言ったからアマヨリは……」
「違います! 私が勝手に決めたことです……」
レンユウは、淡々と話しているが殺気を帯びたクリプタに怯え、戦慄し、泣いていた。そんなレンユウの隣でアマヨリは動じることなく、これなら他の管理官に烈火の如く怒鳴られたほうがマシだったと考えていた。
クリプタが着替える暇さえないほどに慌て、あの場所へ来たのはアマヨリも充分わかっていた。けれど、どうして自分たちは自由に他の場所へ行くことができないのか。と頭の片隅では常に納得のいかない思いを抱えていた。
黙り込む二人を前にしたからなのか、それともアマヨリの、その態度に気づいたのかクリプタは少し感情的になった。
「なにを言っているんだ。テーヴァに会う? そんなことをして何に……」
クリプタは何かまずいことを口走ったのか、言いかけたことを飲み、額を抑えてため息をついた。ため息からも彼の怒りの感情が伝わってくる。アマヨリもレンユウも何もできないままデスクの前で刻々と時が過ぎていくのを耐えた。
クリプタは黙り込む二人をそのままに、椅子から立ち上がると、書庫からファイルの束を取り出して机上に投げるように置いた。それからエアビューを開いて、ファイルを見ながら作業を始めたのだ。
レンユウはどうしていいかわからない様子で、嗚咽しながら袖に顔を押し当て流れ続ける悲しみを拭っている。
どうしよう、これ以上謝っても許してはもらえなさそうだ。私たちの気持ちを聞いてはくれないのだろうか。アマヨリは純粋なレンユウの気持ちを踏みにじられた気がして、どうしても言ってやりたくなった。
「クリプタはそうやって、画面ばかり見ているから、大切なものがわからないのよ!」
動いていた手が止まり、クリプタはアマヨリを見た。
「大切なものを守るためにやってる。お前達は子供でまだ理解できないだろうが」
「嘘よ。テーヴァだって絶対にここに戻って来ない。誰もここに戻らない。私たちは会いたい人に会うこともできないなんておかしいよ!」
音のない空間が二人の少女を支配する。クリプタは表示していたエアビューを全て閉じた。そしてもう一度、黄金色の瞳でアマヨリを見据えて、続けた。
「一切の事情は考慮しない。規則違反は規則違反だ。二人とも二ヶ月の懲罰室行きだ」
レンユウが悲鳴にもならない声を小さくあげて、呆然と立ち尽くしている。
「責任はわたし一人で取ります。レンユウは許してあげて、お願いクリプタ!」
アマヨリはクリプタの隣に駆け寄って縋り付くように懇願した。何も知らないレンユウを巻き込んでしまったことに責任を感じており、何としてでもあの懲罰室行きをレンユウだけは回避させたかったのだ。
けれどその考えはどこまでも自分本位で甘く、クリプタの逆鱗に触れた。
「責任?」
ああ、私はまたクリプタの怒りを買ってしまった。今ままで淡々と話していたクリプタの目つきが一瞬で変わったのがわかった。
「いいか、自分だけが責任を負って済むものだとは思うな。お前らが考えている責任の重さがいかに軽いものだったのか、懲罰室でよく考えるといい」
アマヨリは張り上げられたクリプタの声に驚き、あとずさる。
「末端の人間が背負える責任なんて限られている。目の前のものしか見えず、自己中心的な考え方しかできないうちは、お前たちに責任を語る資格はない。以上だ」
そう言うと、クリプタは別の班の管理官を呼び出し、二人を懲罰室へ連れていくことを指示すると、アマヨリの顔も見ずに部屋から弾き出した。
そして、今までアマヨリ達を担当していたアルダナリが翌日から変わっていたことは、懲罰室から帰ってきた後で知ることとなった。




