第50話 無能力サポート、弱点を直さず武器にする
攻略が進むにつれて、笑美の癖がはっきりしてきた。
第四層へ降りて三度目の交戦のときだった。
「エミ、そのまま撃って!」
「もうちょっとです!」
「今でいい!」
「もうちょっと溜めれば、もっと強いの撃てます!」
笑美の掌の上で、電流が渦を巻いている。青白い光が、少しずつ濃くなっていく。
その間、彼女は完全に無防備だった。
ホーンラビットが、まっすぐ笑美へ突っ込んでくる。
「誠!」
「分かってる!」
誠が、間に割って入った。風の膜が、突進の勢いを削ぐ。それでも押し切られかけたところで、マリーが横から一撃を入れて片付けた。
交戦が終わったあと、笑美は肩を落としていた。
「……すみません。私が粘ったせいで」
「別に、粘ること自体は悪くないと思うけど」
徹が言うと、笑美が顔を上げた。
「え?」
「エミ、最大出力まで溜めたら、あのホーンラビット、何秒で倒せる?」
「……たぶん、一撃です」
「三割だと?」
「三、四回は撃たないと」
「じゃあ、溜めた方が早い」
「でも、溜めてる間に襲われます」
「だから、溜めましょう」
笑美は、意味が分からないという顔をした。
「え?」
「撃てないなら、撃てる状況を作ればいいだけです」
徹は、地面に落ちていた小石を三つ拾って、並べた。
「エミが最大まで溜めるのに何秒かかる?」
「八秒くらいです」
「じゃあ、その八秒を誰かが作ればいい。誠が前に立って、敵を止める。マリーが引きつける。俺が敵の位置と残り時間を数える」
徹は、小石の位置を動かしながら続けた。
「エミの仕事は、八秒待って、一撃で仕留めること。それ以外は、他の三人の仕事です」
「……でも、それって」
笑美が、言い淀んだ。
「私が、みんなに守ってもらってるだけじゃないですか」
「そうですよ」
徹は、あっさり肯定した。
「その代わり、エミにしか撃てない一撃を撃ってもらいます。俺はどれだけ溜めても雷なんて出ませんから」
笑美は、しばらく黙っていた。それから、小さく頷いた。
「……分かりました。溜めます」
少し離れたところで、マリーがその様子を見ていた。
弱点を克服させるのではなく、弱点があることを前提に組み立てる。徹のやり方は、マリーの発想にはないものだった。
◇
第四層の残りを進みながら、四人の役割が固まっていった。
笑美は後方で充電。誠はその周辺を守る。徹は敵の位置、笑美の残り時間、撤退経路を管理する。マリーは前衛で敵を引きつける。
最初のうちは、まるで噛み合わなかった。
「エミ、充電開始!」
「はい!」
「誠、右から来る!」
「どっちの右だよ!」
「エミから見て右!」
「先に言え!」
混乱した。何度か、笑美が充電の途中で中断させられた。
だが、五度目の交戦あたりから、少しずつ揃い始めた。
「エミ、充電開始」
「入ります!」
「誠、左に一体」
「見えてる」
「マリー、あと五秒」
「了解」
マリーが敵の群れの中心へ踏み込み、三体をまとめて引きつける。誠が笑美の前で風の壁を維持する。徹が秒数を刻む。
「三、二、一」
「撃ちます!」
最大出力の雷が、通路を白く染めた。
残っていた敵が、まとめて沈む。
「……すごいですね、これ」
笑美が、自分の掌を見つめて言った。
「私、一人だとこんなに撃てません」
「一人でやる必要がないだけです」
徹は、次の通路の地図を確認しながら答えた。
マリーは、少し離れたところに立っていた。
自分が倒した敵の数は、いつもより明らかに少ない。前衛で引きつけ、時間を作り、決定打は笑美が撃つ。それが今日の役割だった。
いつもなら、退屈だと感じていたはずだ。
だが、そうならなかった。
「マリー、次いきます」
「……ええ」
自分でも、なぜかは分からなかった。
◇
第五層への階段を降りた先で、それは現れた。
アーマードベア。第五層の中では上位に属する個体だ。全身を覆う甲殻状の外皮は、生半可な攻撃を弾く。
笑美が、息を呑んだ。
「……大きいです」
「三メートル半ってところか」
誠が、風を纏いながら後退する。
マリーが、前へ出た。ヴァリアントへ手をかける。
一撃で終わる相手だった。この場にいる誰もが、それを分かっていた。
徹は、ここまでの二人の動きを思い返した。
五度の交戦。役割の分担。噛み合い始めた呼吸。誠の風は、明らかに精度が上がっている。笑美の充電も、開始の判断が早くなった。
徹は、口を開いた。
「マリー。ここ、二人に任せてみません?」
マリーの手が、止まった。
「……二人だけで?」
「はい」
マリーは、アーマードベアを見た。それから、後ろに立つ二人を見た。
笑美の顔は、緊張していた。誠の顔も、同じだった。
だが、二人とも、下がろうとはしていない。
「やってみる?」
マリーが聞いた。
「やります!」
笑美が、即答した。
「やらせてくれ!」
誠も続いた。
マリーは、ヴァリアントから手を離した。
「分かった。じゃあ私は手を出さないわ」
その言葉が、宣言として響いた。
徹も、一歩下がった。
ここから先は、二人の戦いだった。




