↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
50/53

第50話 無能力サポート、弱点を直さず武器にする




 攻略が進むにつれて、笑美の癖がはっきりしてきた。


 第四層へ降りて三度目の交戦のときだった。


「エミ、そのまま撃って!」


「もうちょっとです!」


「今でいい!」


「もうちょっと溜めれば、もっと強いの撃てます!」


 笑美の掌の上で、電流が渦を巻いている。青白い光が、少しずつ濃くなっていく。


 その間、彼女は完全に無防備だった。


 ホーンラビットが、まっすぐ笑美へ突っ込んでくる。


「誠!」


「分かってる!」


 誠が、間に割って入った。風の膜が、突進の勢いを削ぐ。それでも押し切られかけたところで、マリーが横から一撃を入れて片付けた。


 交戦が終わったあと、笑美は肩を落としていた。


「……すみません。私が粘ったせいで」


「別に、粘ること自体は悪くないと思うけど」


 徹が言うと、笑美が顔を上げた。


「え?」


「エミ、最大出力まで溜めたら、あのホーンラビット、何秒で倒せる?」


「……たぶん、一撃です」


「三割だと?」


「三、四回は撃たないと」


「じゃあ、溜めた方が早い」


「でも、溜めてる間に襲われます」


「だから、溜めましょう」


 笑美は、意味が分からないという顔をした。


「え?」


「撃てないなら、撃てる状況を作ればいいだけです」


 徹は、地面に落ちていた小石を三つ拾って、並べた。


「エミが最大まで溜めるのに何秒かかる?」


「八秒くらいです」


「じゃあ、その八秒を誰かが作ればいい。誠が前に立って、敵を止める。マリーが引きつける。俺が敵の位置と残り時間を数える」


 徹は、小石の位置を動かしながら続けた。


「エミの仕事は、八秒待って、一撃で仕留めること。それ以外は、他の三人の仕事です」


「……でも、それって」


 笑美が、言い淀んだ。


「私が、みんなに守ってもらってるだけじゃないですか」


「そうですよ」


 徹は、あっさり肯定した。


「その代わり、エミにしか撃てない一撃を撃ってもらいます。俺はどれだけ溜めても雷なんて出ませんから」


 笑美は、しばらく黙っていた。それから、小さく頷いた。


「……分かりました。溜めます」


 少し離れたところで、マリーがその様子を見ていた。


 弱点を克服させるのではなく、弱点があることを前提に組み立てる。徹のやり方は、マリーの発想にはないものだった。


     ◇


 第四層の残りを進みながら、四人の役割が固まっていった。


 笑美は後方で充電。誠はその周辺を守る。徹は敵の位置、笑美の残り時間、撤退経路を管理する。マリーは前衛で敵を引きつける。


 最初のうちは、まるで噛み合わなかった。


「エミ、充電開始!」


「はい!」


「誠、右から来る!」


「どっちの右だよ!」


「エミから見て右!」


「先に言え!」


 混乱した。何度か、笑美が充電の途中で中断させられた。


 だが、五度目の交戦あたりから、少しずつ揃い始めた。


「エミ、充電開始」


「入ります!」


「誠、左に一体」


「見えてる」


「マリー、あと五秒」


「了解」


 マリーが敵の群れの中心へ踏み込み、三体をまとめて引きつける。誠が笑美の前で風の壁を維持する。徹が秒数を刻む。


「三、二、一」


「撃ちます!」


 最大出力の雷が、通路を白く染めた。


 残っていた敵が、まとめて沈む。


「……すごいですね、これ」


 笑美が、自分の掌を見つめて言った。


「私、一人だとこんなに撃てません」


「一人でやる必要がないだけです」


 徹は、次の通路の地図を確認しながら答えた。


 マリーは、少し離れたところに立っていた。


 自分が倒した敵の数は、いつもより明らかに少ない。前衛で引きつけ、時間を作り、決定打は笑美が撃つ。それが今日の役割だった。


 いつもなら、退屈だと感じていたはずだ。


 だが、そうならなかった。


「マリー、次いきます」


「……ええ」


 自分でも、なぜかは分からなかった。


     ◇


 第五層への階段を降りた先で、それは現れた。


 アーマードベア。第五層の中では上位に属する個体だ。全身を覆う甲殻状の外皮は、生半可な攻撃を弾く。


 笑美が、息を呑んだ。


「……大きいです」


「三メートル半ってところか」


 誠が、風を纏いながら後退する。


 マリーが、前へ出た。ヴァリアントへ手をかける。


 一撃で終わる相手だった。この場にいる誰もが、それを分かっていた。


 徹は、ここまでの二人の動きを思い返した。


 五度の交戦。役割の分担。噛み合い始めた呼吸。誠の風は、明らかに精度が上がっている。笑美の充電も、開始の判断が早くなった。


 徹は、口を開いた。


「マリー。ここ、二人に任せてみません?」


 マリーの手が、止まった。


「……二人だけで?」


「はい」


 マリーは、アーマードベアを見た。それから、後ろに立つ二人を見た。


 笑美の顔は、緊張していた。誠の顔も、同じだった。


 だが、二人とも、下がろうとはしていない。


「やってみる?」


 マリーが聞いた。


「やります!」


 笑美が、即答した。


「やらせてくれ!」


 誠も続いた。


 マリーは、ヴァリアントから手を離した。


「分かった。じゃあ私は手を出さないわ」


 その言葉が、宣言として響いた。


 徹も、一歩下がった。


 ここから先は、二人の戦いだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。