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第27話 無能力サポート、天使と勇者を指揮する




 低い警報音が、廊下の空気を切り替えた。


『緊急事態発生。新天地町の工事現場にて小ゲートを確認。市街地への浅層モンスター流出中』


『警察職員は所定の配置先へ。市民の避難を最優先としてください』


 館内放送を聞いた職員たちが、一斉に動き出す。


 竹内が無線機を掴み、依田が玄関の人垣へ走る。


 マリーのスマホには、短い通知が表示されていた。


 ――モンスター流出警報につき、都条例に基づく緊急招集。


「やれやれ、だな」


 さきほどマリーと別れたマイトが、二人のところへ戻ってくる。


 手にスマホを持ち、おそらくマリーのものと同じ通知が表示されていた。


「円卓からの指示だ。結構な数が流れてきたらしい」


 マイトがそう言った直後、窓の外で悲鳴が上がる。


 黒い影が飛び出し、停車中の車の屋根へ着地した。


 ブラックウルフ。


 一体ではない。


 その後ろからコボルト、ゴブリン、羽音を響かせるラージモスキートが次々と現れた。


「流出が早すぎる」


「もうここまで来るとは」


 警察署の前にいたファンと記者数十人が、狭い出入口へ殺到する。


「押さないでください! 正面を空けて!」


 男性警察官が声を張るが、パニックは収まりそうにない。


 複数の小モンスターが、ファンと記者たちに襲いかかる。


「ふっ……」


 瞬間、襲いかかったモンスターに爆風が巻き起こる。


 マイトの瞳に赤みが帯び、手をかざすと、その先で小規模な爆発が複数回発生した。


 モンスターたちはその爆発に巻き込まれ、ファンと記者たちに近づけない。


「ヴァリアント!」


 マリーが走り、胸元にある赤い宝石のペンダントへ触れた。


 宝石を中心に大剣が形成され、神剣ヴァリアントが現れる。


「はあああああ!!」


 そのまま、マリーはヴァリアントを一閃させた。


 モンスターはすべて、一刀のもとに両断された。


「もう大丈夫よ」


「安心してくれ」


 マリーとマイトが横に並び、笑顔でファンたちに話しかける。


「「マリー様……やっぱ最強っす!!」」


「「マイト君、かっこいい」」


 パニックがやみ、警察官が署内への誘導を始める。


 粛々と移動を始める様子に、徹は呆然とするしかなかった。


「いがみ合ってても、連携すげえな」


 あらためて、これがプロかと思った。


 それから、周囲を見る。


 警察は封鎖線を作り始めている。


 周りは忙しなく動き続ける、その中で止まっている自分。


 何が最善かなど分かるはずがない。だが、それでも何かせねばならない。


 考える暇もなく、徹は竹内のもとへ駆けた。


「竹内さん、状況はどうなっているんですか?」


「新天地町の小ゲートからの流出が止まりません。警察署の直近なので、なんとかここで押さえたいですが、人手が足りません」


「他のところからの応援は?」


「自衛隊が向かってますけど、もう少し時間がかかるみたいっすよ」


 POLICEと書かれた大盾を片手に、依田が話に入ってくる。


「これだけの流出規模は一年に一回あるかないかっすからね。自衛隊も多少の準備は必要でしょう」


「じゃあ……」


 ハッと徹は気づく。


 そして、玄関出入り口前でファンたちに声をかけ続けるマリーとマイトへ目をやった。


「竹内さん、モンスターの流入は新天地町からだけなんですよね」


「そうですね、他からは確認できていません」


 徹はニッと笑みを浮かべる。


「いるじゃないですか、ここに。しかも最高のが」


 そう言うと徹は、竹内と依田に自分の考えを説明した。


 竹内は驚き、依田は相変わらずニコニコ笑っている。


「……なるほど」


「さすがっすね。その案、いただきっす」


「よろしくお願いします」


 徹は、竹内と依田から離れ、マリーとマイトに駆け寄った。


「マリー! マイトさん!」


 二人は同時に徹の方を見る。


「状況は?」


 奇しくも二人は同時に、同じ言葉を徹に投げかける。


 徹は二人の最強攻略者の前で息をのみ、出入口横の周辺図を指さしながら、現在の状況を説明した。


 説明が終わると、マイトは腕を組み、右手で軽く顎を触った。


「まずは、小ゲートを潰すのが先か」


「そうです、それが最優先です」


「私が行くわ」


 マリーの指が、ヴァリアントの柄を強く握る。


「相変わらず、何も考えないな」


 即座に返したのはマイトだった。


「なによ、こうやって話し合う時間も惜しいじゃない」


「能力の問題だ。お前、あたり一帯全部吹き飛ばすつもりか?」


「人命が最優先、必要ならそうする」


「……階層一つをぶっ壊した本人らしい言葉だな」


 キッとマリーがマイトを睨みつける。


 一方のマイトは涼しそうに笑っていた。


 そして、マイトは徹へ顔を向けた。


「トオル。最適解を用意しろ」


 命令は短かった。


 徹は警察署の壁に掛けてある周辺の地域図と、窓の外を交互に見る。


 マイトの配信で見た戦いを思い出す。


 狭い洞窟。途切れない敵。足場の悪い場所でも崩れない隊列。喧騒にありながらも、最短で中核へ届く進み方。


 一方、マリーの強さと速さは、狭い市街で使うには大きすぎる。


「マイトさんが小ゲートをお願いします」


 マリーがえっ、と驚いた表情を見せる。


 マイトは当然とばかりに、髪をかきあげた。


「理由は」


「狭い市街地でも、マイトさんの能力なら被害を最小限に、そして最速で進めます」


「正解だ」


 勇者マイトは頷かず、ただ言葉だけ返した。


「トオル、私は……」


「……マリーは、ここで待機してください」


 マリーは真剣な表情で徹を見た。


 その顔には何の迷いもない。最強の天使だからと、特別扱いする気もない。


 マリーはふっと小さく息を吐いて、ヴァリアントを背中に預けた。


「……分かったわ」


 その様子を見ていたマイトは、何を言うでもなく、警察署の出入口を出た。


「トオル、何かあればすぐに呼べ。さっきの名刺を見れば分かる」


「では行ってくる」


 マイトの目が、深紅に染まる。


 その瞬間、マイトの足元で小さな爆発が起き、舞い上がった。


 そして、空中でも爆発を生じさせ、目的地へと飛翔していった。


「速いな……」


 徹がそう感想を漏らしていると、その横をマリーが通り過ぎる。


 ちょうど警察署を背に置く形で立ち止まり、前方に広がる直線の大道路を見つめていた。


「トオル」


「はい」


 マリーは振り返ることなく、徹の名前を呼んだ。


 さっきまでとは違う印象。


 迷いのない、天使の目だった。


「任せたわ」


「……はい」


 徹は、静かに答えた。


 周囲が喧騒に包まれる中、徹にはマリーの声だけが、しっかりと聞こえた。




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