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R15 終末世界で、執事は僕を調律する。~人外執事×傲慢坊ちゃま~  作者: 島田まかろん三世
第五章

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共鳴の閾値<いきち>

 久世が、僕へ向かって跳んだ。

 速い。

 空気が裂ける。


 蔦が反射的に膨張し、幾重にも絡み合って盾を作る。

 青い繭。


 けれど――


 真ん中が穿たれた。

 丸く、正確に。

 蔦が、避けるみたいに崩れる。


 久世が、目の前に現れる。

 吐息が、近い。

 金色の瞳が、僕だけを映している。


 その手には、無骨な軍用ナイフ。


 低く、一定の振動音が鳴っている。

 僕の蔦が、その音にざわめいた。


 調律する気だ。


 僕の核に、自分の位相を打ち込む気だ。

 そうはさせない。

 僕は今、最高に気分がいいんだ。


 星の鼓動が、背骨を駆け上がる。

 肺の奥で、宇宙が呼吸する。

 僕は、このまま、この星に、共鳴する。


 久世のナイフが閃く。

 同時に、僕の蔦が鞭のようにしなる。


 柔らかな手応え。

 貫いた。久世の胴体を。


「あ」


 短い、息。

 それは、確認みたいな声だった。


 久世が、青いものを口から吐いた。

 血――だろうか。


 苦痛に顔を歪め、久世は、蜥蜴に似た姿に変わる。

 なのに、僕の蔦が、さらに深く、久世を貫く。


「がファ……っ!!」


 口から、一口分の青い血を吐き出したあと、久世は、力なく項垂れた。

 粘ついた細くあおいすじが、口の端から、床に垂れた。


 久世は、動かない。


 ああ。

 ああ……。


 ――違う。


 死んではだめだ。


 これは……なんだ?

 どうして。


 僕がやったんだ。

 久世を――刺した。


 僕は……化け物だ。


 蔦の先端から、青が侵食していく。

 久世が纏う布が、凍りつくように硬質化し、皮膚が、骨が、内側から光を帯び始めた。

 僕の作る青い結晶で、久世の腹部に、青い鉱脈が広がる。


 止血と、縫合。


 蔦は萎びた。

 星の鼓動が、遠のく。


 僕は、廊下の瓦礫に横たわる久世の前――冷たいコンクリートに、膝をついた。


「久世……」


 僕は、久世を見た。

 もう一度、呼ぶ。


「久世」


 久世の瞼が微かに動いて、ゆっくりと開いた

 蜥蜴に似た舌が、ちろちろと動いた。


「さすがです……坊ちゃま」


 違う。

 そんな言葉が欲しいわけじゃない。


「……違うんだ、久世。逃げるんだ。ここから逃げよう」


 僕は、泣いていた。

 涙が、久世の鱗の頬にぽたぽたと落ちた。

 僕は震える手で、結晶化させた腹部に触れた。僕が久世を壊し、僕が久世を繋ぎ止めている。その歪な事実に、頭がおかしくなりそうだった。


「立って、久世。お願いだ」


「無理です……」


 久世が、笑った。

 穏やかに。

 満足そうに。


「……坊ちゃまのせいで、動けません」


 それは僕にとって、甘やかな呪いだった。

 そしてそれは、永遠の停滞のようにも思えた。


 僕は久世の手を取った。

 それから……崩れゆく施設の中――塵と灰が舞う中で、僕は、自分が犯した罪の重さに、がたがたと震えていた。

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