共鳴の閾値<いきち>
久世が、僕へ向かって跳んだ。
速い。
空気が裂ける。
蔦が反射的に膨張し、幾重にも絡み合って盾を作る。
青い繭。
けれど――
真ん中が穿たれた。
丸く、正確に。
蔦が、避けるみたいに崩れる。
久世が、目の前に現れる。
吐息が、近い。
金色の瞳が、僕だけを映している。
その手には、無骨な軍用ナイフ。
低く、一定の振動音が鳴っている。
僕の蔦が、その音にざわめいた。
調律する気だ。
僕の核に、自分の位相を打ち込む気だ。
そうはさせない。
僕は今、最高に気分がいいんだ。
星の鼓動が、背骨を駆け上がる。
肺の奥で、宇宙が呼吸する。
僕は、このまま、この星に、共鳴する。
久世のナイフが閃く。
同時に、僕の蔦が鞭のようにしなる。
柔らかな手応え。
貫いた。久世の胴体を。
「あ」
短い、息。
それは、確認みたいな声だった。
久世が、青いものを口から吐いた。
血――だろうか。
苦痛に顔を歪め、久世は、蜥蜴に似た姿に変わる。
なのに、僕の蔦が、さらに深く、久世を貫く。
「がファ……っ!!」
口から、一口分の青い血を吐き出したあと、久世は、力なく項垂れた。
粘ついた細くあおい筋が、口の端から、床に垂れた。
久世は、動かない。
ああ。
ああ……。
――違う。
死んではだめだ。
これは……なんだ?
どうして。
僕がやったんだ。
久世を――刺した。
僕は……化け物だ。
蔦の先端から、青が侵食していく。
久世が纏う布が、凍りつくように硬質化し、皮膚が、骨が、内側から光を帯び始めた。
僕の作る青い結晶で、久世の腹部に、青い鉱脈が広がる。
止血と、縫合。
蔦は萎びた。
星の鼓動が、遠のく。
僕は、廊下の瓦礫に横たわる久世の前――冷たいコンクリートに、膝をついた。
「久世……」
僕は、久世を見た。
もう一度、呼ぶ。
「久世」
久世の瞼が微かに動いて、ゆっくりと開いた
蜥蜴に似た舌が、ちろちろと動いた。
「さすがです……坊ちゃま」
違う。
そんな言葉が欲しいわけじゃない。
「……違うんだ、久世。逃げるんだ。ここから逃げよう」
僕は、泣いていた。
涙が、久世の鱗の頬にぽたぽたと落ちた。
僕は震える手で、結晶化させた腹部に触れた。僕が久世を壊し、僕が久世を繋ぎ止めている。その歪な事実に、頭がおかしくなりそうだった。
「立って、久世。お願いだ」
「無理です……」
久世が、笑った。
穏やかに。
満足そうに。
「……坊ちゃまのせいで、動けません」
それは僕にとって、甘やかな呪いだった。
そしてそれは、永遠の停滞のようにも思えた。
僕は久世の手を取った。
それから……崩れゆく施設の中――塵と灰が舞う中で、僕は、自分が犯した罪の重さに、がたがたと震えていた。




