蓮華
ガラスの箱が、内側から「僕」によって充填される。
密閉された空間を青い蔦が埋め尽くし、逃げ場を失った圧力が、ついに限界を超えた。
――ぱきん、と、音がした。
乾いた音が、施設の静寂を切り裂く。
いや、それはもっと重く、もっと鈍い。
内側から、自身の骨を砕くような、生々しい破裂音だ。
強化ガラスが粉々に弾け飛び、廊下の生温い空気が、僕の頬を撫でた。
誰かが叫んだ。
ママの声が、まだ鼓膜の奥に残響している。
――『逃げなさい』
逃げる?
どこへ。
足元には、ダイヤモンドのように砕け散ったガラスの破片。
体に繋がれていた管はすべて、僕自身の蔦によって引き抜かれ、床に無造作に落ちている。
でも蔦は止まらない。
僕の意志を置き去りに、星の位相に突き動かされるようにして、伸びていく。
青い光が、血流のように床を走る。
それは僕の力のはずなのに、どこか他人の呼吸みたいだった。
星が、息をしている。
僕は、その肺の中にいる。
手と足の指から伸びた蔦が、廊下を這う。
ゆるやかに、確かめるみたいに、壁や天井を撫でていく。
悲鳴が途切れた。
刹那の静寂。
次の瞬間、鈍い破裂音が響いた。
閃光と衝撃。
熱線が走り、僕の蔦のところどころが焦げ、千切れて弾け飛ぶ。
焦げた蛋白質の匂いが、鼻を突く。
けれど、痛くない。
そんなものは、とっくに通り過ぎている。
廊下のスピーカーがキーンと鳴った。
「¶ォ――!! ⌘∅り⟐さ§――!!」
パパの声だ。
パパ。もう僕を叱らないで……抱き締めて。
廊下の向こうに、黒い影が、整然と並ぶ。
防弾ベストと特殊マスクで個性を消した、武装兵の葬列だ。
彼らの構える重火器の銃口が、一斉に僕へと向けられる。
反射的に、蔦が僕を包み込んだ。
それは、柔らかくてあたたかい。
マシンガンの轟音が外側で狂ったように暴れ、衝撃が重低音となって伝わってくる。
でも、内側は驚くほど静かだった。
とくん。とくん。
僕の心臓と、星の鼓動が重なり合う。
僕の蔦が、意思を持った鞭となってしなり、兵士たちの列を一薙ぎにした。
肉が潰れる音も、骨が砕ける音も、今の僕には、星の不純物が取り除かれる音でしかない。
「kぜ――!! ∋く§°‘ロ⌘kるΘkШろ――!!」
また、パパの声だ。
パパ……どこに隠れているの?
廊下の先――また誰かの影。
「おいたが過ぎますね。坊ちゃま」
久世だ。
僕の――じゃ、ない……久世。
軍用ナイフを持って、立っている。
黒曜石の瞳が瞬いて、金色に変わる。




