再会
会えるとなれば、数ヶ月ぶりだ。
イースターの春休み、イギリスの寄宿学校から一時帰国した、あの雨の日の午後以来。
けれど、この再会は、数百年もの永い彷徨を経て辿り着いた、遠い昔――前世の邂逅くらい、溢れる想いに満ちていた。
高い天窓からは、柔らかな陽光が、天使が纏う光の雫のように降り注いでいる。
ここには「青い蔦」の侵食も、死者の腐臭もない。
「パパ――!!」
そこに、いた。
パパは、僕の記憶の中にある姿と、寸分違わずそこに立っていた。
やつれてもいない。恐怖に支配されてもいない。
いつも通り、シワひとつない三つ揃えのスーツを着て、洗練された佇まいで、穏やかな、慈愛に満ちた微笑みを浮かべて。
生きていた。
「怜央――!!」
名前を呼ばれた瞬間、僕の景色は溢れ出した涙で滲んだ。
父の腕が、僕を力強く抱き締める。
その体温。カシミアのスーツの柔らかな感触。
高級な葉巻と、サンダルウッドの香りが、懐かしく――僕の記憶の扉を、優しく叩いていた。
それは、地獄を歩き続けてきた僕が、死の間際に見る「幻」であっても構わないと思えるほど、圧倒的な救いだった。
話したいことが沢山ある。
色々なことがあったんだ。
恐怖にかられた群衆を見た。
人が死ぬのを見た。
僕も、何度も死にかけた。
それから、僕の肩の上で、背後に立つ、執事――久世へ向けられた、パパのねぎらいの言葉。
「よく、ここまで、連れて来てくれた」
そのとき久世は、無言で深々と頭を下げていただろうか。
うなじに、温かいものが触れた。
そして、微かに甘い、薬品のような匂い。
「怜央」
パパの声は、すぐ傍で響いたはずなのに、なぜか、水の底から聞こえるみたいに遠く歪んでいった。
抱き締められたままのはずなのに、腕の感触が、少しずつ現実からほどけていく。
心地いい。
けれど、どこか夢の中の温もりだ。
まぶたが、重い。
視界の端が、白み始める。
光なのか、靄なのか、判別もつかないまま、世界の輪郭が静かに溶けていく。
パパの胸の鼓動だけが、やけにゆっくりと聞こえる。
安心していいはずなのに。
どうしてか、胸の奥に、小さな違和感が生まれた。
指先から力が抜ける。
声を出そうとしても、音にならない。
膝の力が、すっと抜けた。
「パ……」
その声を最後に。
僕の意識は――




