表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
R15 終末世界で、執事は僕を調律する。~人外執事×傲慢坊ちゃま~  作者: 島田まかろん三世
第五章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/56

再会

 会えるとなれば、数ヶ月ぶりだ。

 イースターの春休み、イギリスの寄宿学校から一時帰国した、あの雨の日の午後以来。


 けれど、この再会は、数百年もの永い彷徨を経て辿り着いた、遠い昔――前世の邂逅くらい、溢れる想いに満ちていた。


 高い天窓からは、柔らかな陽光が、天使が纏う光の雫のように降り注いでいる。

 ここには「青い蔦」の侵食も、死者の腐臭もない。


「パパ――!!」


 そこに、いた。


 パパは、僕の記憶の中にある姿と、寸分違わずそこに立っていた。

 やつれてもいない。恐怖に支配されてもいない。

 いつも通り、シワひとつない三つ揃えのスーツを着て、洗練された佇まいで、穏やかな、慈愛に満ちた微笑みを浮かべて。


 生きていた。


「怜央――!!」


 名前を呼ばれた瞬間、僕の景色は溢れ出した涙で滲んだ。

 父の腕が、僕を力強く抱き締める。


 その体温。カシミアのスーツの柔らかな感触。

 高級な葉巻と、サンダルウッドの香りが、懐かしく――僕の記憶の扉を、優しく叩いていた。


 それは、地獄を歩き続けてきた僕が、死の間際に見る「幻」であっても構わないと思えるほど、圧倒的な救いだった。


 話したいことが沢山ある。

 色々なことがあったんだ。


 恐怖にかられた群衆を見た。

 人が死ぬのを見た。

 僕も、何度も死にかけた。


 それから、僕の肩の上で、背後に立つ、執事――久世へ向けられた、パパのねぎらいの言葉。


「よく、ここまで、連れて来てくれた」


 そのとき久世は、無言で深々と頭を下げていただろうか。


 うなじに、温かいものが触れた。

 そして、微かに甘い、薬品のような匂い。


「怜央」


 パパの声は、すぐそばで響いたはずなのに、なぜか、水の底から聞こえるみたいに遠く歪んでいった。


 抱き締められたままのはずなのに、腕の感触が、少しずつ現実からほどけていく。


 心地いい。

 けれど、どこか夢の中の温もりだ。


 まぶたが、重い。


 視界の端が、白み始める。

 光なのか、靄なのか、判別もつかないまま、世界の輪郭が静かに溶けていく。


 パパの胸の鼓動だけが、やけにゆっくりと聞こえる。


 安心していいはずなのに。


 どうしてか、胸の奥に、小さな違和感が生まれた。


 指先から力が抜ける。

 声を出そうとしても、音にならない。

 膝の力が、すっと抜けた。


「パ……」


 その声を最後に。


 僕の意識は――



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ