辿る
空が高い。
紅葉が始まっている。
燃え盛るような赤と、枯れたような黄色。
そして、鉄バクテリアの残骸のような、青い蔦。
その鮮やかさが、コンクリートの高く分厚い壁に囲まれた無機質な景色の中で、死化粧のように浮き立っていた。
奥多摩の研究施設。
僕は子供の頃、一度ここを訪れている――らしい。
幼すぎた記憶は、へどろが堆積した湖の底のように濁って、あまり覚えてはいない。
門の前には、軍の施設で見るような、遮断機と、待機所。
僕たちの姿を認めた瞬間、警備兵が冷徹な動作で銃を構えた。
「止まれ! それ以上近づけば、射殺する!!」
僕はごくりと喉を鳴らした。
ここに来る前に、久世が僕に言った言葉を思い出す。
『そうなったら、私はもう、坊ちゃまを護れません』
久世は何かを隠している。その答えが、ここに在る。
久世が、僕を護らなくなっても。ここにはパパがいる。
僕は叫んだ。
「僕は、御子柴怜央だ!! 父に会いに来た――!!」
警備兵が、構えた銃のわきから、僕を見た。
数秒。
いや、もっと長い時間だったかもしれない。
風が、僕の頬を撫でた。
ポチが、不安そうに鼻を鳴らす。
背後に立つ久世からは、気配すら感じられない。まるで久世の姿だけが、この風景から切り抜かれた影に、変わってしまったかのようだった。
ジジッ……という、無線のノイズ。
「――門を開けろ」
押し殺したような声が、待機所のスピーカーから漏れ聞こえた。
ギィィ……と、油の切れた重い金属音が、静寂を切り裂く。
門がゆっくりと、天を仰ぐように持ち上がった。
大きな口が、開くように。




