朝食
朝食だ。
公園を臨む芝生に、使い込まれた木のベンチとテーブル。
夜露はすでに乾き、朝陽が斜めに差し込んで、薄く白い光の層を作っている。
久世がどこからか調達してきたアイロンの効いたランチョンマット。その上には、滑らかな舌触りのコーンポタージュと、焼き立てのパン。ゆで卵と、湯気の立つ薫り高い紅茶。
デザートは、もぎたてのバナナだ。皮の黒い点が、食べ頃を告げている。
ベビーリーフのサラダも欲しいけれど、望み過ぎはいけない。
この世界では、妥協もまた、生存に必要な礼儀だ。
すぐそこで、ポチは飽きもせず、芝生を摘んでいる。
時折こちらを振り返り、また無心に草を噛む。
全てが優雅だ。
まるで、昨日など存在しなかったかのように。
……昨日。
何をしていたのだったか。
思い出そうとすると、胸の奥がじくりと痛む。
焼ける匂い。青い光。
僕はスプーンで、皿のコーンポタージュを飲んだ。
たまに木陰から、金属が突き刺さった「青いの」が、飢えた獣の唸りを上げてこちらに走ってくるけれど、そのたびに久世が、淀みのない所作で、銀の光を一閃させる。
次の瞬間、青いそれは、地面に崩れ落ち動かなくなる。
僕の久世は、優秀だ。
彼が僕の周りに不可視の「円」を描いているお陰で、僕はこうして、滅びゆく世界の中で、ゆったりとした時間を過ごすことができるのだ。
僕はバナナにナイフを入れ、整然と切り分けた一片を、フォークでもって口に運んだ。
しっかりと熟した甘みが、ねっとりと舌に絡みつく。
ああ、美味しい。
目の前で、久世が切り伏せたアレの青い飛沫が、朝陽に透けて散っていくけれど、まあ、仕方ない。
その願いは、贅沢が過ぎるのだろう。
「坊ちゃま、紅茶のお代わりはいかがですか?」
返り血を一滴も浴びていない久世が、ティーポットを傾ける。
「……ありがとう」
カップに琥珀色の液体が満ちていく。
立ち上る湯気が、青の匂いを薄めた。
「体調は、いかがですか」
久世が、僕に不意に問う。
僕は頷く。
「うん。悪くない」
久世が、黒曜石の潤んだ瞳で、僕をじっと見た。
「左目に、違和感はございませんか」
「あるわけないだろう」
僕はそう言って目を逸らし、ソーサーを持ちながら、淹れたての紅茶を飲んだ。
「左様でございますか」
久世が微笑んだ。
その笑みがすっと真顔に戻り、手袋をしていない右手の親指が、僕の口の端に触れた。
僕はまた久世を見た。
自分の親指に付けた僕の食べこぼしを、久世がぺろりと舐めた。
執事がする仕草じゃない。
なのに、凄く、優雅に見えた。




