浄化
頭を撫でられている。それから、耳の後ろも。
執拗な、けれどどこか温かい感触。
やめろ――くすぐったい!
僕はそれを手で払った。
「ばふっ」
という、どこか情けない声が聞こえた。
声?
僕は咄嗟に上半身を起こし、アイマスクを取った。
ポチ。
僕の髪は、ポチの涎でべったりだった。
お風呂もシャワーも、数日に一度しか使えない身としては、殺意さえ覚える。
勘弁してほしい。
それはさておき。ここはどこだ。
僕の体の下には、寝袋が敷いてあった。
硬いアスファルト――道路?
さっきまで、僕は施設のベッドにいたはずだ。
熱風。
見上げると、夜明けの空を焦がすほどの紅蓮の炎が、僕の視界を焼き尽くした。
『青の光の会』の建物が――燃えている。
真ん中を貫いていた蔦は、断末魔のような高周波を撒きながら、黒煙を吐き出し、ごうごうと燃えている。
信者たちが「神」と崇めた異形の柱は、今やただの、巨大な薪となっていた。
久世は、こちらに背中を向けて、施設の前に立っていた。
一分の隙も無い、燕尾服姿で。
「お目覚めですか?」
そう言って、久世は肩越しに、顔だけ僕へと振り返った。
「坊ちゃま」
その顔は、蜥蜴の形をしている。
知っているさ。
それが久世だってことは。
僕は一瞬、肩が震えて、今はごくりと、固唾を吞んでしまったけど。
「なにを――しているんだ。久世」
久世はまた、正面に向き直ると、言った。
「焚火です」
焚火ではない。
これは――――放火だ。
「信者の人……とか。――教祖……の、人……は?」
「お知りになりたいですか?」
酷い、ものの言い方だ。
けれど、知らない方がいいことも、あるのだ。
そうは言っても。
――僕は、財閥家の子息だ。
この国を、世界を、導いていくリーダーになるのだ。
それなのに。
僕の、執事は、犯罪を。世界が壊れてからずっと、罪を犯している。
確か僕も、誰かを刺した。
咎人。
いや、待て。
今、世界は崩壊している。
秩序も。何もかも。ない。
なら、これは正しいのか。
それとも、やはり――――狂っているのか。
そうだ……パパに聞けば、教えてくれる。
もし、間違っていたのなら、光の入らない蔵に一日入れば、パパは僕を抱き締めてくれる。
そうだ。パパは絶対に、正しいのだから。




