青の光の会
僕が、『青の光の会』を、久世とポチと訪れたのは、三日前。
物資が、底をつきかけていた。
乾いた缶詰。残り少ない水。
そして、僕の体調は、理由の分からない揺らぎを繰り返していた。
青い花は、咲いていない。
――今のところは。
ポチの背に揺られながら、ぼうっとした頭で、僕は建物を見上げた。
そのとき、僕の背にぴたりと張りついた久世の体が、僅かに強張った。
「やめましょう」
低く、短い声。
ポチの鼻先が、くるりと横を向く。
躊躇のない動きだった。
まるで、最初から進む気などなかったかのように。
僕は瞬きをした。
――ゆっくり眠れる場所が、やっと見つかったのに。
そのまま森へ引き返すのかと思った、次の瞬間。
正面玄関のガラス扉が、内側から静かに開いた。
中から現れたのは、白衣姿の男だった。
ひょろりと背が高く、こめかみの髪が、白い。
男はまず、久世を見た。
じっと。
瞬きもせずに。
次に、僕を見る。
「……ほう」
小さく、そう呟いた。
そしてもう一度、久世へと視線を戻し――
ゆっくりと、口角を上げた。
その笑い方に、僕は背筋が冷えた。理由は分からない。
久世が、舌打ちをした。
小さく。
けれど、はっきりと。
それは苛立ちというより、なにかを認識した音だった。
「降りてくださいませ、坊ちゃま」
声音は、いつも通り穏やかだ。
けれど、ポチから降りる前に、僕の腰に添えられた手は、僅かに強い。
僕は腰を反らした。
「やめろ――っ」
人前で、そう思われたくない。
「申し訳ございません。怜央様」
そう言って久世は、割れたコンクリートに降り立ち、改めて僕に手を差し伸べた。
腹が立つ仕草だ。
「ここは、やめるんじゃなかったのか?」
「はい」
久世は即答した。
「気が変わりました」
――はあ!?
舌打ちするほど、ここが気にくわないなら、ポチを全力疾走させて逃げればいいのに。久世はなぜか、そうしなかった。逃げられたはずなのに。
僕は、久世の気紛れで、生かされているのか?
そもそもだ。僕はここ数日、揺らぎを繰り返していた。
久世はそれを、理解していたはずだ。
だから野宿ではなく、しっかりと休める場所が欲しかった。
だから、久世の気が変わったのは悪いことじゃない。
――けど。
僕はなんなんだ。
僕は……。
僕の、存在。
天を仰ぐ。
青い空と、羊雲。
――それから、太陽を囲う大きな輪。
そこに見えたそれは、きっと全ての元凶。
久世がいなければ、生きられない僕。




