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R15 終末世界で、執事は僕を調律する。~人外執事×傲慢坊ちゃま~  作者: 島田まかろん三世
第三章

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銃口

 昨日は、東側を見て回った。

 その前は北だった。

 今日は南側だったから、明日は、西に足を伸ばしてみよう。

 おにぎりを持って。


 タケダさんのシェルターで、泥のような眠りを得るようになって、今日で五日目だ。


 平らに寝ると心臓に負担がかかるから、と。

 ヨシテルさんはいつも、上半身を枕に預けて、身体を少し起こしたまま寝ている。

 けれどその日の朝は、ソファに、真っ直ぐ横たわっていた。


 サヨさんが、ソファの前に跪き、両手で、ヨシテルさんの手を包み込むように握っている。

 肩は震えていない。

 泣き声もない。


 静かだった。

 モニターの微かな駆動音だけが、シェルターの空気を薄く震わせている。


 薬はまだ、何錠か残っていたはずだ。


 なのに。


 今、ヨシテルさんの胸は、動いていなかった。


 僕は、その場に立ったまま、動けなかった。


 近づいて、確かめるべきなのか。

 声をかけるべきなのか。

 それとも――何もしない方がいいのか。


 分からなかった。

 分からないまま、立っていた。


 僕たちに背を向けたまま、サヨさんが言った。


「――やっと、ゆっくり眠れるさ」


 その声は、怒ってもいなかったし、悲しんでもいなかったと思う。


 僕は、口を開いた。

 けれど、何も出てこなかった。


「……」


 喉の奥に、言葉だけが引っかかる。


 お悔やみを。

 大丈夫ですか。

 何か出来ることは。


 どれも、薄っぺらく思えた。


 ヨシテルさんは、辿り着いたのだ。

 この、終わった世界で。

 きっと、自分の足で。


 そう思った瞬間、自分の胸の奥が、妙に静かであることに気づいた。


 久世の手が、僕の腰を押す。

 久世は既にバックパックを肩に掛け、出発の準備を終えていた。


「さ、行きますよ。坊ちゃま」


「は? 何を言って……」


 久世は、重たいハッチの扉を開けた。

 僕は久世に押され、階段を上がる。


 置いて行くのか?

 彼女を一人で?


 けれど背後で、ハッチが閉まる音が聞こえた。


 こうして僕たちは、白亜のシェルターをあとにした。

 ここもそのうち、青い蔦に覆われるだろうか。

 そのとき、あのマダムは、どうしているのだろう。


「久世」


「はい。なんでしょう坊ちゃま」


 僕は、後ろで手綱を握る久世に訊ねた。


「お前は、僕が死んだらどうする?」


 手綱を握る久世の手が、一瞬緩み、すぐに僕を包み込んだ。


「そうならないように、私がお傍にいるのです。怜央様」


 静かで、穏やかな声。

 けれど、お前は僕を、ナイフで刺したじゃないか。

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