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R15 終末世界で、執事は僕を調律する。~人外執事×傲慢坊ちゃま~  作者: 島田まかろん三世
第三章

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食卓

 地図に印をつけられた場所を、僕たちは一箇所ずつ見て回った。

 薬は、見つからなかった。

 朽ちた薬棚には空の瓶が転がり、赤い夕暮れが、青い蔦に射す。


 ただ、幾ばくかの食料は見つけた。

 それを持って、僕たちは、再びあの白亜の要塞――タケダさんのシェルターへと戻った。


「なら、私が調理しましょう。坊ちゃまの口に合わないものを、食べさせるつもりはありません」


 非常食のおかずを、そのまま出そうとしていたマダムを、久世が執事としての完璧な会釈で制した。


「毒を疑われるのは当然でしょう。ですので――どうぞ、ご覧になっていてください」


 久世がキッチンに立ち、慣れた手つきで玉ねぎを刻み始める。

 トントントン、と響く規則正しいリズム。冷凍庫で眠っていたベーコンが熱せられ、バターの芳醇な香りが、澱んだシェルターの空気を鮮やかに塗り替えていく。

 小麦粉とスキムミルクが混ざり合い、とろりとしたホワイトソースへと変わる。


 マダムによって炊かれていた米に、ナツメグとバター、塩コショウ。

 それを、一つの大きな耐熱皿に盛り、出来立てのホワイトソースと、その上にチーズを散らし、オーブンへ。


 ドリアの匂いが、シェルターに満ちていく。


 それは、飢えを凌ぐための「有機物」ではなく、僕たちがかつて愛し、そして失った「日常」そのものの匂いだった。


 夕食ディナー

 カウチソファとローテーブル。

 僕たちは、一つの食卓を囲んだ。


 ぽつりと、タケダさんが話してくれた。


 タケダさんは、名前を「ヨシテル」さんと言った。

 かつては、高校の国語教師をしていたのだという。


 退職後、独学で始めたPCの知識は三十年の歳月を経て、この地下シェルターの「神経系」になった。

 壁一面に並ぶモニターには、森の侵食範囲が秒単位で更新されている。


 青い蔦の広がり。

 地熱。

 微細な振動。


 世界が崩れてからも、彼はずっと、観測を続けているのだと言った。


「見ている間はね、いつまでも世界は続く気がするんだよ」


 そう言って、ヨシテルさんは少しだけ笑った。


 マダムの名は、「サヨ」さん。

 白髪を櫛で纏め、散弾銃を膝に立てかけたまま、食卓の端に静かに座っている。

 無駄な動きが一つもない。

 まるで、この要塞そのもののような人だった。


「彼女は、僕の、教え子だったんだ」


 ヨシテルさんは短く言った。


「八つ違い。昔はね、ずいぶん生意気な生徒だったよ」


「あなたも、こんなに禿げるとは思ってなかった」


「サヨ――!?」


 ヨシテルさんが咳を抑えながら、小さく返す。


 サヨさんは狩猟が趣味で、()()()()前は、よく、イノシシを狩っていたそうだ。


 サヨさんが捕まえてきたイノシシを牡丹鍋にしてよく食べた。

 たまに、散弾銃の破片が残っていて、食べていると「じゃりっ」と噛むことがあったと――笑いながら、ヨシテルさんが話す。


 ふたりに子供はいない。できなかったのだそうだ。


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