貌
バギッ――バギバギッっと、背後で、硬質な何かが粉砕される音がした。
なにが起こったのかは分からない。
けれど、肩を掬われた。
同時に、雨上がりの森のような、鋭い「鉄」の匂い。
「よく頑張りましたね、坊ちゃま。見上げた根性です」
凛とした声。
久世の――声だ。
けれどその貌は、爬虫類のそれだった。
二本足の、背筋の真っ直ぐに伸びた爬虫類が、燕尾服を着ている。
手の指は長く、鋭い爪があった。
ああけれど、彼は確かに、久世だ。
なぜなら、見惚れるほどに美しいからだ。
「さて……よくもやってくれたな――! 貴様ごときが――!!」
丁寧語じゃない久世の言葉を、僕は初めて聞いたかもしれない。
「ふ……はっ……」
鷹宮は、笑った。
琥珀色に変わった瞳が、一瞬で消えた。
青い血が、床に撒かれた。
それの胴体に残った軍用ナイフを抜いて、久世が、僕を振り返った。
「さあ、行きましょう坊ちゃま。ここは息が詰まります」
僕は、その手を取った。
銃声が聞こえる。
散弾銃の乾いた音と、マシンガン。
嬌声。
ボスが不在になったここは、どうせ青に覆われる。
今か、後かだ。
久世。
僕の久世。久世・奏多!!
お前がいれば、終末は奇跡に変わる。
森から、嘶きが聞こえた。
葦毛の馬が、僕らを迎えた。




