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R15 終末世界で、執事は僕を調律する。~人外執事×傲慢坊ちゃま~  作者: 島田まかろん三世
第二章 本州

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兄さん

 訊きたいことは、山ほどあった。


 この世界は、どうしてこうなったのか。

 鷹宮兄さんの言う「在来種」とは、一体何なのか。


 そして――


 あの時、僕を見下ろした、縦に裂ける金色の瞳。


 ……金色?


 ふと、胸の奥がざわついた。


 兄さんの目は、黒いはずなのに。

 記憶の中にある、あの禍々しくも美しい黄金色は、誰のものだったか。


「説明するのは面倒だ。知りたければ自分で探せ」


『全部教えてやる』――そう言っていたのに。


 兄さんは、僕に小さな真鍮の鍵を渡してくれた。

 この施設が、大学だったころの知の集積地――図書室の鍵。

 そこは、ミラーボールの光も、肉を焼く煙も届かない――迷いも、揺れることもない、死者が眠るだけの、墓標のような場所だった。


 生者が、ただ、意義があることのように、意味づけするだけの。


 僕は、蛍光灯の下にさらされた本棚を見て回った。

 ベストセラーの棚がある。


 ヘミングウェイ――


 友人たちは、『日はまた昇る』や『武器よさらば』の方が()()()と言っていたが、僕は、『老人と海』が好きだ。


 トーマス・マン――『ヴェニスに死す』

 谷崎潤一郎――『痴人の愛』

 森鴎外――『舞姫』


 僕好みの本棚だ。


 資料探しを忘れて、僕は本を読み漁っていた。


 コンコンッ――扉を叩く音。


 僕はハッとした。

 顔を上げる。

 時計を見た。合っていれば――五時間ほど、経っている。


「資料は見つかったか?」


 兄さんだった。上半身裸の上に、白衣を羽織っている。

 僕は手にしていた本を本棚に戻した。


『カフカ――変身』


「ごめん、鷹宮さん。まだ……」


 兄さんは微笑んで、ソールの重いブーツでずかずかと図書室に入ってきた。奥の机に積んであった書類を掴み、それを無造作に、僕へ渡した。


「読んでみろ」


 僕は言われるがまま、ぺらぺらとページを捲る。


 ************************


 在来種:


 現生人類と同時期に存在していた旧系統。

 外見的差異はほぼ認められない。

 一部個体に、虹彩の色素異常および縦瞳孔化の報告あり。

 社会適応率、特に「支配・被支配の倫理観」において現生人類と乖離が見られるため、保護対象として管理。


 ※在来種は、侵食過程において記録上の同一性保持(個体記憶の変質)に問題が生じる例が報告されている。


 ************************


『在来種』――って何?


 そんな分類、僕は一度も聞いたことがない。


 著者の名は――『鷹宮春継』


「……兄さん?」


 長テーブルに腰を落として、ページを捲る僕の隣で、同じ個所に視線を落としていた兄さんと、目が合う。


 兄さんは、にっこりと笑った。


「兄さん?」と、不思議そうに彼が言う。


 僕はハッとして、手で口を覆った。

 顔が、赤くなるのを感じた。


 鷹宮さんの手が伸びて、僕は頭をくしゃっと撫でられた。


「この歳で、こんなでかい弟ができるとは、思ってなかった」


「――いえ。その……鷹、宮さん」


 鷹宮さんは、僕の背中をバンバンと叩いた。

 ひいぃぃぃっ痛い!


「兄さん――だろ?」


 彼は、親指を立てた。


「――兄……さん」


「ほら、夕飯だ。行くぞ」


 僕は、兄さんの後を、追いかけた。


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