酒
僕は個室を用意された。
狭い部屋に、高校の保健室にあるような簡素なベッドが一つ。
窓はベニヤ板で塞がれ、時刻が昼か夜か知るには、隙間から零れる光に頼るしかない。
僕は、女性を一人、あてがわれた。
僕の好みじゃない。
派手な化粧に、嫌悪が込み上げる。
ファンデーションか、口紅か――安物の香水の匂いが鼻に突く。
分かったことは、ここは大学の研究施設で、あの武装集団は大学生が殆どで、武器や装備は、「青」に侵食された自衛隊から奪ったものらしい。
ボスの名前は「鷹宮」。
元「人類進化学の准教授」だという。
成功者ではあるが、研究費のためにパトロンに頭を下げ、知識を搾取されていた側――なのかもしれない。
僕は、蝋燭がいくつか灯る薄暗い部屋で、ベッドの端に腰を下ろし、自分の右腕を見つめた。
その「痕」に、隣に座った女が、手を重ねた。
「触るな――!」
僕は手を引っ込めた。
女はハッとして、視線を伏せた。
「ご……ごめん……な、さい」
口紅を塗りたくった真っ赤な唇が、たどたどしく動いた。
それからサイドテーブルに、華奢な手が伸びる。
「飲む?」
酒を進められる。
グラスを持つ女の指が、震えている。
どこで用意したのか、氷を入れ、そこに、琥珀色のウイスキーが注がれる。
渡されたそれを、僕は一口、味も確かめずに喉に流し込んだ。
「ケホッ――ケホッケホッ……」
喉が焼ける。食道を、熱が下りていくのを感じた。胃が拒絶する。
鼻に抜けるのは、ブナや松を蒸留したような、消毒薬に似た匂い。
最初の一口で、もう体がアルコールを受け付けない。
けれど僕は、もう一度、酒を煽った。
久世は酒を、『毒』と言っていた。
なら僕は今、毒を飲み込んでいる。
久世のせいだ。
全部、久世のせいだ。
お前が僕を、助けに来ないからだ。
酔いが、泥のように僕を飲み込んでいく。
僕は、ベッドに倒れ込んだ。
シーツからは、知らない誰かの体臭と、果物が腐敗したような匂いがした。
気持ちが悪い。
思考が麻痺する。
疲れた。眠い。もう寝よう。
目覚めたら、全部夢だったらいいのに。
そうしたら、きっと、久世も、生きて――




