霜降る
誇りを渡してたまるものか。
僕は、奥歯が砕けるほど顎を噛み締め、目の前の琥珀色の瞳を睨めつけた。
けれど――。
足元から、パキッと、氷が割れるような硬質な音が響いた。
なん――だ?
一瞬、思考が凍りつく。
視線だけを、恐る恐る下へと向けた。
「……っ!?」
膝を床につける僕の脚から、青い結晶が音を立てて噴き出す。
それは冬の朝に窓を覆う霜のように、鋭く、そして無慈悲に僕の皮膚を突き破り、コンクリートの床へと根を張っていく。
パキ、パキパキッ――
結晶は僕の意志を嘲笑うように、ふくらはぎを覆い、腿を侵食し、僕の身体をその場へと縫い付けていく。
熱い。いや、痛いくらいに冷たい。
僕の細胞が、僕の知らない「青い秩序」に書き換えられていく、悍ましい感触。
目の前の男が、笑った。
「うはっ」
歓喜と侮蔑が混ざり合った、短い吐息。
ソファに侍る取り巻きたちは、顔を背ける。
なんだよこれ。
なんだよこれ――!?
いやだ。
こんなの。いやだ――!!
――久世。なにをしている。僕を助けろ!!
いるんだろ久世。
生きているんだろ!?
なんで僕を助けない。
久世。久世――――!!!!
――――ズン。
世界が、腹の底から震えた。
地震ではない。もっと重く、粘り気のある地鳴りだ。
建物全体が、唾液を嚥下する巨大な生き物の喉ぼとけのように鳴動し、一階の爆音も、男たちの下卑た笑い声も、一瞬にして底知れぬ静寂へと飲み込んだ。
目の前の男の額に、脂汗が噴き出したのを、僕は見た。
奴は奥歯を噛んで、空を睨んだ。
――ああ。こいつは、『恐れている』んだ。
そう思った瞬間、また、パキッと音がした。
見るとそれは、結晶が、僕から剥がれ落ちた音だった。
一階では、どよめきが起こり始めた。
無精ひげの男は立ち上げり、僕の横を乱暴に通り過ぎた。
吹き抜けの手すりから、階下へ向けて怒声が放たれた。
「落ち着け!!」
その一声で、狂乱の宴は、無理やり再起動したかのように音を取り戻した。




