あの時と似た
僕が見守る前で、久世は次々と青い奴らを切り伏せていく
強い。
圧倒的、という言葉すら生温い。
その舞踏のようなナイフ捌きに、僕は一種の陶酔すら覚えていた。
僕はただ、湿った線路の上で、その背中を見ていた。
燕尾服の裾が翻り、烏の羽のような艶やかな黒髪が、闇の中でかすかに光る。
やっぱり――久世がいれば、終末なんて関係ない。
――あれ?
胸の奥に、小さな何かが引っ掛かった。
前にも、こんなふうに思ったことがある。
その日に起きたこと……あれは。
そのとき――車両が真っ二つに裂け、青い光を撒き散らしながら崩れ落ちた。
静寂。
青い粒子がキラキラと舞う中、久世は線路へと静かに降り立った。
そして――
久世の膝が、唐突に崩れる。両手をついた。
その肩が、微かに震えている。
ミシミシと、その内側で骨が軋み、組み変わるような不気味な音が聞こえた。
「……久世?」
久世の息が、荒い。
僕は久世に駆け寄ろうとした。
「来てはいけません――!!」
鋭い声が、闇を裂く。
僕の足が止まる。
久世は、苦しげに眉を寄せながら、それでも僕を見ていた。
その瞳が、金色に光っている。それは、人間の顔に無理やり嵌め込まれた、異界の宝石のようだった。
「来ては、いけません」
苦しそうな、途切れ途切れの声。
「衝動で貴方を――」
久世は片手で、目を覆った。
「……食べたい」
指の隙間から覗く金色の瞳が、縦に裂けた。
あの日と同じだ。あの、地下通路。
足元に冷たい感覚が走った。
ごぽ、と音がした。
線路の隙間から、水が溢れ出している。
もう足首まで、浸かっていた。
毎秒、このトンネルには、大量の海水が染み込んでいる。本来なら、排水溝に溜まった海水は、ポンプで地上に汲み上げられるはずだ。けれどたぶん、非常電源も、止まったのだろう。
きっとすぐに、水で溢れる。
気を失った久世を担いで、今すぐここを出られるわけがない。
けれど、僕ひとりなら、脱出できる。
僕は走った。
「――っ!?」
地面に頽れそうな久世を、抱き止める。
力なく、だらりと垂れる久世の両腕。
「怜央、様……。逃げ、て……ください」
熱い。僕は、命の塊を抱き締めるように、久世を、ぎゅっと引き寄せた。
離してたまるか――!!
「お前は――僕の執事だろう!!」
僕の叫びが、浸水していくトンネルに、木霊した。
たとえこのまま海に沈むとしても、僕を置いて《ゆ》逝く権利など、この男には一秒たりとも与えない




