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R15 終末世界で、執事は僕を調律する。~人外執事×傲慢坊ちゃま~  作者: 島田まかろん三世
第二章 本州

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地獄

 久世に体を支えられ、僕は線路沿いを、枕木を数えるように歩く。

 僕も左手を伸ばし、久世の腰を掴んでいた。

 バランスを取るために、腰に添えられた久世の右手に、僕は、自分の右手を重ねて歩いた。


 小学生の時の体育祭で、同級生と二人三脚で走った記憶が甦る。

 あれは確か、腰じゃなくて、肩を組んで走った。


 大人になって、男同士で――しかも使用人と、こんなふうに歩くものなのだろうか。

 でも、足元は暗いし、なにが起こるか分からない。

 怖くはない――けれど、これは必然なんだ。


 久世から立ち上る、香り……なんの香水だろう。

 爽やかで、澄んでいて。好きな香りだ。

 どこにつけているのだろう。

 手首かな。耳朶みみたぶとか。


 なんで僕は、こんなことを考えているんだ。


 ――だめだ。


 久世が懐中電灯で、前方の壁を照らす。

 湿った闇の中に、『たっぴかいてい』という駅名が見えた。


 その時だった。

 トンネルの奥から、明かりが漏れた。


 誰か――人がいるのか?


 白く、規則正しい光。

 懐中電灯とは違う。

 けれど、知っているはずの光だ。


 次の瞬間、足元が震えた。


 ドゴ、ドゴ、ドゴ――

 巨大な鉄の塊が、剥き出しの岩盤を叩き潰すような轟音。


 誰か――いや、何かが、こちらに向かってやってくる。


 ――闇を割って現れたのは、新幹線の車両だった。


 ただし、知っている形ではない。


 車体の両脇から、何本もの腕が百足ムカデのように突き出している。

 人間のものによく似た、けれど巨大すぎる節くれ立った関節。その手は線路を掴み、壁に手を置き、歩いていた。


 異形の列車は、僕たちのわずか数メートル手前で、ぴたりと止まった。

 中は、満員だった。


 人。

 人、人、人。


 青い光を内側から滲ませ、押し潰されるように詰め込まれている。


 軋む音とともに、自動ドアが開く。

 同時に、人が押し出され、雪崩のように降りてくる。


 ――それは、降りてきてはいけない形だった。


 頭が、ボストンバッグと癒着している。

 胴体の半分が、キャリーケースに溶け込み、剥き出しの肋骨が、ファスナーを噛んでいる。


 通勤と観光と移動の成れの果て。

 それらが次々と、扉から溢れ出す。


 あぁ、あの鞄は……僕も持っていたものだ。


 コンクリートを叩く湿った肉の音が、トンネル内に反響する。僕を、殴りつけるように。


 ここが地獄だと、改めて理解した。


 崩れ落ちそうになる僕の腰に、久世が力を込めた。

 逃げ場のない鉄の箱のようなこの暗闇で、その手だけが唯一、確かな質量を持って、僕を繋ぎ止める。


「私がいるではありませんか」


 僕は、久世に重ねた右手で、その手をギュッと握りしめた。

 この手から溢れ出す異質な熱なしでは、僕はもう、立っていることさえできないのか。

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