墓
僕は、喉の奥に引っかかった何かを、無理やり押し込んで言葉を吐いた。
「……ゆいさん」
声が、思ったより平坦だった。
「僕たちと、一緒に来る?」
ゆいは、庭の土を見たまま、頷きもしなかった。
少し考えるように、小さく首を傾げるだけだ。
「ここ、まだあったかいんだよ」
ゆいは、指先で土を撫でる。
その指先が、侵食の粉塵で青く汚れていく。
その青さは、彼女の肌の上で、死の予兆のように不気味で、同時に残酷なほど鮮やかだった。
「こんなになっても、たまにこうやって、草が生えるんだ」
僕は、何も言えなかった。
死んだものの世界に固執する彼女の優しさが、僕には、正気を失った執着のように見えて。恐ろしかった。
風が吹き抜けた。
青い粉塵が舞い上がり、彼女の髪に絡みついた。
「ねえ」
ゆいが振り返る。
「怜央くんは、平気なの?」
その問いが、どこに向いているのか分からなかった。
両親のことか。
ここを去ることか。
それとも――僕自身のことか。
僕は、ゆいの澄んだ瞳から、目を逸らした。
僕には彼女を、救えない。
「……行こう、久世」
言葉にした瞬間、何かが決定された気がした。
けれど、それが何かは分からなかった。
「はい、坊ちゃま」
久世の声には、満足げな、ひどく甘やかな響きが混じっていた。
まるで、僕が未練を切り捨てたことを、祝福しているかのように。
ゆいは、追ってこなかった。
カイの遠吠えが聞こえた。
けれど僕は、振り返らなかった。




