物資
ゼリー飲料のパウチを吸い込みながら、僕はゆいとカイの後ろを歩いた。
合成甘味料の安っぽい味が、昨夜のリゾットの余韻を汚していく。
「あっちの家、まだ物資が残ってるかも!」
指を差すと、ゆいは顎に垂らしていたバンダナを引き上げ、手際よく口元を覆った。
民家の前で、カイが唸り声を上げる。
——アレが、いるのか?
そう身構えた瞬間には、ゆいはすでに手慣れた動作でバールを構えていた。
二十扉のガラスをバールで叩き割り、奥の玄関扉に手を掛ける。
乾燥した木材が軋む音とともに、扉が開いた。
次の瞬間、暗がりから、何かが飛び出してきた。
青い。
光を、撒いている。
人の形をしている、と理解するより先に、鈍い衝撃音が、僕の耳を打った。
吸い込まれるように振り下ろされた鉄の質量が、肉と骨を無慈悲に粉砕する。
グチャリ、という、湿った果実を叩き潰したような音。
それは壁に叩きつけられ、痙攣を一度だけして床に沈んだ。
——静寂。
息遣いだけが残る。
ゆいは、何事もなかったように、バールに付着した青い体液を、玄関に掛かっていた他人のコートで拭い、家の中へ足を踏み入れた。
――僕は一歩、無意識にゆいから距離を取っていた。
ゆいは女の子で、か弱い。そう信じていたのは、僕だけだった。
けれどずっと、こうやって、生きてきたんだ。
玄関には子供の靴、おもちゃと、止まった時計。棚の上の写真立て。この家の『かつての幸せ』の残骸。
キッチンの冷蔵庫の中身は、鼻を潰すような腐臭を放っている。
ゆいは薬箱から中身だけを取り出し、リュックに詰めていく。
僕は黴臭さに耐えかねて、パーカーのチャックを口元まで閉じた。
僕の隣に立つ久世の、鉄壁のように揺るがない、無機質な気配だけが、今は唯一の安息だった。




