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R15 終末世界で、執事は僕を調律する。~人外執事×傲慢坊ちゃま~  作者: 島田まかろん三世
第一章 北海道

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 冷たいものが、喉元に触れた。


 一瞬、何が起きたのか分からなかった。

 次の瞬間、呼吸をするたびに、そこが擦れる感覚に気づく。


 軍用ナイフだ。

 鋼の冷たさが、僕の頸動脈の鼓動を、克明に刻んでいる。


 そして僕の体から、青い川が、堰を切ったように溢れ出す。


「……っ、ふ、あ、あ”あ”あ”あ”!!」


 喉の奥で、獣のような声が鳴った。自分の声だとは信じられなかった。

 僕のうなじを、久世の大きな手が、強引に持ち上げた。


「……動かないでください」


 耳元に、久世の声が落ちた。

 低く、静かで、湿った声。いつも朝、僕を起こしに来る時の、あの澄んだ声とは似ても似つかない、泥を啜るような重苦しい響き。


「……すぐ、楽になりますから」


 嘘だ。

 久世の言葉なんて、一文字だって信じない。 痛みは沸騰した熱に変わり、熱はドロドロとした逃げ場のない快楽に書き換えられていく。


 久世が傷口に唇を寄せ、僕から噴き出す「せい」を、そして僕をむしばむ「青」を、貪るように舐めとっていく。


 久世の口腔の熱。それが、僕の理性を、一枚ずつ剥ぎ取っていく。


 生かされている。


 こんな世界で。

 こんな痛みの中で。


 生きる意味なんて、どこにある。


 それでも、僕の血管の隅々には、久世から逆流してきた異質な「熱」が、ほとばしる。

 骨組みだけを残して、古い肉をすべて捨て去り、久世の肉で作り替えられるような感覚が――脳を焼く。


「……っ。……久、世」


 久世は執拗に、僕の首筋を舐め続ける。傷口が塞がり、侵食が止まれば、それでいい。それで、久世の言う『調律』は済むはずだ。なのに。


「久世……」


 僕が名を呼んだ瞬間。僕の唇に、血の味がする久世の唇が、暴力的な質量で押し当てられた。

 拒絶する隙さえ与えられず、久世の意思が、僕の口内へ侵入してくる。

 逃げ場を失った僕の呼吸は、久世の肺へと直接吸い込まれていくようだった。


 それなのに、僕が必死に吸い込もうとした酸素は、すべて久世に奪われ、代わりに彼の熱い吐息が、僕を満たす。


 脳が痺れ、脊髄を電流が走り、腰から下が、自分の物ではなくなっていく。


 久世の腕が、折れそうなほど強く、僕を支える。


 声を出そうとして、熱い息だけが、唇の端から漏れた。

 久世が、わずかに唇を離した。


「久……」


 名を呼び終える前に、再び塞がれた。さっきよりも深く、魂ごと飲み干すような、絶望的な口づけ。

 意味は、あるのか。


 考えようとする僕の意識は、まだ……抗いようのない熱に、浮かされていた。

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