第12話:氷華の福音、あるいは終焉の宣告
1~12話まで次回予告を書くのを忘れていました☆
ということで今回の話(13話)からはなるべく、しっかり書くようにします。
それでは第13話\(^o^)/ハジマリハジマリ
その日、空が「割れた」。
大陸全土の空に、鏡に走った亀裂のような漆黒の線が刻まれた。そこから溢れ出したのは、この世界の魔力とは明らかに波長の異なる、どす黒い異界の波動。
かつて建国王が恐れ、リヒテンベルクの娘たちを「生贄」に捧げることで辛うじて遠ざけていた、『空虚の神々(ヴォイド・アバター)』の尖兵が、ついにその牙を剥いたのだ。
「ギ……ギギ……アァァァッ!」
亀裂から降り注いだのは、不定形の影のような怪物たち。彼らは物理攻撃はおろか、既存の属性魔法さえも透過し、人々の「魂」を直接喰らい始めた。
帝国も、東の軍事国家も、そして没落寸前の旧王国も、パニックに陥った。彼らが積み上げてきた「剣と魔法」の文明が、全く通用しない異次元の侵略者。
「ひ、火を放て! 聖水を撒け! 神よ、我らをお守りください!」
旧王都の広場で、騎士たちが無様に叫ぶ。だが、彼らの放つ炎は影を通り抜け、聖水はただの地面を濡らすだけに終わる。影に触れられた人間は、一瞬にして感情を失った抜け殻となり、その場に倒れ伏していった。
全大陸同時・魔導投影
絶望が世界を覆い尽くそうとしたその時。
カキィィィィンッ!
空気を震わせるほどに高く、澄んだ「鈴の音」が世界中に響き渡った。
「……騒がしいわね。私の庭で、勝手な振る舞いは許さないと言ったはずよ」
その瞬間、世界中の空に巨大な「映像」が映し出された。
エル・リヒテンの頂点、氷華城のバルコニーに立つ、エレナ・フォン・リヒテンベルクの姿。
彼女の背後には、人型となった銀狼シルが騎士のように控えている。
「あ……エレナ様……!」
「エレナ様が、見ておられるぞ!」
旧王都の民たちが、かつて自分たちが追い出した少女の名を、救いを求めるように叫ぶ。
ジークフルトもまた、王宮のテラスから、空に浮かぶ巨大なエレナを仰ぎ見ていた。その美しさは、もはや「婚約者」などと呼ぶことさえ恐れ多い、神々しいまでの威圧感を放っていた。
「全大陸の諸君。……そして、かつて私を『悪役』と呼び、石を投げた愚か者たち。よく聞きなさい」
エレナは冷淡な視線を全人類へと向け、静かに宣告した。
「世界を維持していた旧い理は、今、この瞬間に死にました。……あなたたちが縋る『神』は、あなたたちを救わない。なぜなら、神にとってあなたたちは、ただの電池に過ぎなかったのだから」
彼女が右手を天に掲げると、その周囲に未知の数式が黄金の文字となって展開された。
Ψ(x, t) = √P(x, t) * e^{ iS(x, t) / ħ }
(※エレナは量子力学的な確率解釈さえも魔術に組み込み、影という「不確定な存在」に強引に『凍結』という確定した結果を押し付けようとしていた)
「私は、私を信じる者だけを救う。……救われたいと願うのなら、その魂に私の刻印を刻みなさい。それ以外の者は、そのまま影に溶けて消えるがいいわ」
絶対零度の蹂躙
エレナが指先を弾くと、エル・リヒテンの城から放たれた白銀の光が、全大陸の空へと広がった。
パキィィィィンッ!!
世界中で暴れていた影の怪物たちが、一瞬にして静止した。
彼らは「影」であったはずなのに、エレナの魔力が触れた場所から、美しい結晶体へと変質し、そのまま砕け散っていく。
「透過」という概念そのものを「凍結」によって上書きする、超越的な魔法。
「嘘だ……。帝国軍が全滅しかけた相手を、たった一撃で……!?」
「エレナ様! エレナ様万歳!!」
世界中から歓喜の叫びが上がる。
だが、エレナの表情は一切崩れない。彼女はただ、義務を果たすように、冷徹にその力を振るい続けた。
ジークフルトの絶望
空に浮かぶエレナの映像が、ふと、旧王都の方向を見下ろした。
視線が合った。
ジークフルトは、そう確信した。
「エレナ……! 私だ! ジークフルトだ! 今すぐここへ来てくれ! この国はもう限界だ、お前の力が、お前が……お前さえいれば、私はまた王として……!」
ジークフルトは、なりふり構わず空に向かって両手を広げた。
だが、投影されたエレナの瞳に宿っていたのは、激しい怒りでも、復讐の悦びでもなかった。
――それは、足元の石ころを見るような、完全な『無』だった。
「……ジークフルト殿下。まだそこにいたのですね」
エレナの声が、世界中に放送される。
「あなたの声は、もう私には届きません。……あなたが私の名前を呼ぶたびに、私の世界の空気が汚れる。……その汚物のような執着を、私の『冬』で清めてあげましょう」
「え……?」
次の瞬間、ジークフルトの足元から、一本の氷の棘が噴き出した。
それは彼を殺すためではない。
彼が立っていた「王宮のバルコニー」そのものを切り離し、彼を高い場所から引きずり下ろすための衝撃。
「うわああああぁぁぁッ!!」
ドサリ、とジークフルトは地面に落ちた。かつて民衆を見下ろしていた高い場所から、泥まみれの路地裏へと。
彼を見下ろす者はもう誰もいない。民たちは皆、空に浮かぶエレナという「新しい太陽」を仰ぎ見るのに夢中で、地に這いつくばる落ちぶれた王太子のことなど、誰も気に留めていなかった。
真の女王の戴冠
影の尖兵たちは一掃され、空の亀裂はエレナの氷によって一時的に「封印」された。
世界に束の間の静寂が戻る。
「……シル。これで、第一段階は完了よ」
映像の中で、エレナが傍らの銀髪の青年に微笑みかける。
シルは恭しく彼女の手を取り、その甲に誓いの接吻を落とした。
「御心のままに、我が主。……今、大陸中の王たちが、あなたへの謁見を求めて国境に列を成しております。もちろん、旧王国の使者は追い返しましたが」
「当然ね。……彼らには、自分たちが捨てた『悪役』が、どれほど高価な代償だったのかを、これからの人生をかけて学んでもらいましょう」
エレナが最後にもう一度、全大陸へと告げた。
「新しい時代の法は、私が決める。……拒む者は、永遠の冬に閉ざされる覚悟をしなさい」
映像が途切れる。
後に残ったのは、救われたことへの安堵と、それ以上に深い「絶対者への畏怖」だった。
かつて愛を知らず、義務に縛られ、泥を投げられた一人の少女は、今、世界の運命をその細い指先一つで左右する、冷徹にして美しき「氷の支配者」となったのだ。
【次回予告:第13話】
世界中の王が集まる「氷華会議」。そこでエレナは、全国家の解体と、自らを唯一の皇帝とする「世界統一」を提案する。一方、鉱山で正気を失いかけていたソフィアの前に、影から囁きかける「真の黒幕」が現れ……。




