第18話 あなたと迎える卒業式
卒業パーティまで、あと2ヶ月半。
あの日から一週間。
エカテリーナは、何度も何度も言葉を練習した。
そしてようやく。
「フォーマ様」
「ん?」
放課後の教室。
窓から差し込む夕日を背に、フォーマが振り返る。
「少し……お話をしてもよろしいでしょうか?」
「もちろん」
いつもの穏やかな笑顔。
それを見ただけで、エカテリーナの心臓が跳ねる。
「あの……」
両手を胸の前で握る。
「卒業パーティの……エスコートなのですが」
「……!」
フォーマの瞳が僅かに見開かれた。
エカテリーナはそれだけで緊張してしまう。
「その……もし、フォーマ様にご予定がなければ……」
一度、息を吸う。
「私のエスコートを、お願いできないでしょうか?」
「……」
沈黙。
エカテリーナは不安になった。
「も、もちろん……ご予定があるのでしたら──」
「いや」
フォーマが微笑む。
「喜んで」
「……!」
エカテリーナの顔が、一瞬で赤くなる。
「ほ、本当ですか?」
「うん」
「……ありがとうございます!」
花が咲いたような笑顔。
フォーマはそんな彼女を見て少しだけ目を細めた。
「こちらこそ」
「え?」
「俺も、君をエスコートしたいと思っていたから」
「……っ」
エカテリーナは真っ赤になった。
「そ、そう……ですか……」
「うん」
「……」
「……」
二人の間に、何とも言えない沈黙が流れる。
けれど不思議と嫌ではなかった。
「……では」
エカテリーナが小さく笑う。
「卒業パーティの日を……楽しみにしております」
「俺も楽しみにしてるよ」
◇
その数日後。
フルーネフェルト公爵邸。
「まあ!」
温室でのお茶会でニコルが声をあげる。
お茶会にはシシリア、ナナリー、マリアンヌ、エレノア。
合わせて6人の令嬢が集まっていた。
「ついに!」
「本当にエスコートをお願いできたのですね!」
「おめでとうございます!」
「あ……ありがとうございます」
エカテリーナは恥ずかしそうに微笑む。
「よかったですわねぇ」
ニコルが嬉しそうに笑う。
「これで卒業パーティは安心ですわ」
「はい」
エカテリーナは頷いた。
「そういえば」
シシリアが思い出したように尋ねる。
「フォーマ様は、どのような礼装を?」
「紺色に水色のアクセントが入った礼装だそうです」
「まあ」
エカテリーナが少し嬉しそうに続ける。
「フォーマ様の故郷の独自の刺繍が施されているそうで……光の角度によって模様が浮かび上がる、と」
「素敵……!」
ナナリーが目を輝かせる。
「ならば!」
マリアンヌが立ち上がった。
「エカテリーナ様のドレスにも、水色の装飾を増やしましょう!」
「え?」
「お揃いにするのです!」
「まあ、それは素敵ですわ!」
エレノアも賛成する。
ニコルとシシリア、ナナリーも頷いた。
「では、マダム・モーリーに相談してみましょう」
「ええ!」
◇
翌日。
エカテリーナはマダム・モーリーの店を訪れていた。
「水色の装飾を、もう少し増やしたいのです」
「もちろん可能ですわ」
マダムはドレスの設計図を確認する。
「エスコートのお相手様が水色を?」
「はい」
「まあ……」
マダムが楽しそうに笑った。
「それは素敵ですわね」
「……」
エカテリーナは少し恥ずかしそうに頷く。
「せっかくですから、並んだ時にお互いの衣装が引き立つようにいたしましょう」
「お願いします」
「お任せくださいませ」
マダムはすぐに作業へ取りかかった。
「卒業パーティまでには十分間に合いますわ」
「ありがとうございます」
エカテリーナはほっと息を吐く。
そしてふと、店の奥に掛けられている自分のドレスを見た。
藤色の生地。
繊細な刺繍。
そしてそこに追加されるであろう水色の装飾。
「……」
その隣に水色のアクセントを持つフォーマの礼装が並んだら。
きっととても綺麗だろう。
「……楽しみ」
小さく呟く。
マダムはそれを聞いて微笑ましそうに目を細めた。
◇
そして卒業パーティまで、あと2ヶ月半。
完成したドレスを受け取る日には、フォーマも同行することになっていた。
「せっかくだから、一緒に見に行こう」
そう言ったのはフォーマだった。
「……はい!」
エカテリーナは嬉しそうに頷いた。
自分の卒業を彩るドレス。
そしてそのドレスを着て隣に立つ人。
それを思うだけでエカテリーナの胸は、温かくなった。




