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俺が出会った令嬢は、笑うことを忘れていた  作者: 3色あんこ


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13/24

第13話 帰ってきた令嬢と、動き出す舞台



 エカテリーナが療養を始めてから、1ヶ月。

 ようやく右足首の固定が外された。


「まだ無理は禁物ですよ」


 医師からそう念を押され、エカテリーナは小さく頷いた。


「はい」


 立ち上がってみる。

 まだ少し違和感はあるけれど自分の足で立てる、歩ける、それだけで嬉しかった。


「……学園に戻れます」


 エカテリーナは窓の外を見た。

 久しぶりに見る学園は、以前と何も変わらないように見える。

 けれど彼女には分かっていた。

 自分が休んでいた1ヶ月の間にも、何かが変わっている。

 そしてその変化を、最初に教えてくれたのは──


「カーチャ」

「……!」


 聞き慣れた声。

 振り返るとそこにはフォーマが立っていた。


「フォーマ様!」

「足は?」

「もう大丈夫です」

「本当に?」

「はい」


 エカテリーナは2、3歩歩いてみせる。


「ほら」

「……無理してない?」

「してません」

「ならいいけど」


 フォーマは微笑んだ。


「おかえり、カーチャ」


 その一言にエカテリーナの胸が温かくなる。


「……ただいま、戻りました」



◇


 学園へ戻ったエカテリーナを待っていたのは。


「エカテリーナ様!」

「おかえりなさい!」

「ご無事で本当に良かったです!」


 多くの友人たちだった。

 ニコルやシシリア、ナナリー。

 そして以前からエカテリーナを支えてきたニコラス、エレノア、マリアンヌ、アーサー達。


「ご心配をおかけしました」

「こちらこそ」


 ニコルがエカテリーナの手を握る。


「お帰りをお待ちしていました」

「ありがとうございます」


 エカテリーナは嬉しそうに笑う。

 その姿を少し離れた場所から見ていた人物がいた。

 バーバラだった。


「……」


 彼女の表情が曇る。

 そして隣に立つマルケールが口を開いた。


「戻ってきたか」

「……はい」

「まあいい」


 マルケールは冷たく言う。


「卒業まであとだ。そう長くはない」

「殿下……」

「気にするな」


 マルケールはバーバラの肩を抱いた。


「お前は俺が守る」

「……はい」


 2人はそのまま歩いていった。

 その姿を見てエカテリーナは何も言わなかった。

 以前なら胸が痛んでいたかもしれない。

 けれど今は違う、自分の周囲には自分を守ってくれる人たちがいる。


「カーチャ」

「はい?」

「今日の授業、魔法理論からだったよね」

「はい」

「ノート、持ってきた」

「……!」


 フォーマが鞄から分厚いノートを取り出す。


「こんなに……?」

「毎回まとめておいた」

「フォーマ様……」

「君、真面目だから。休んでる間も勉強したがると思って」


 エカテリーナはノートを抱きしめた。


「ありがとうございます」

「どういたしまして」


 そのやり取りを見てニコルが小さく笑う。


「相変わらずですね」

「え?」

「いえ、何でも」


 シシリアとナナリーも顔を見合わせた。

 3人は以前からフォーマの正体に疑問を抱いていた。

 今はもうそれを口にするつもりはない。



◇


 その日の放課後。

 エカテリーナたちは、いつものように数人で集まっていた。


「そういえば」


 ナナリーが声を潜める。


「例の件、どうなりました?」


 フォーマの表情が僅かに変わる。


「進んでるよ」

「何か分かりましたか?」

「卒業パーティで何かを仕掛けるつもりなのは、ほぼ間違いない」

「やはり……」


 エカテリーナが不安そうにする。

 フォーマはすぐに続けた。


「でも具体的な内容は、まだ掴めていない」

「……」

「だからこそ」


 フォーマは全員を見る。


「こちらから余計な動きはしない」


 ニコルが頷く。


「罠を仕掛けるなら、仕掛けさせる?」

「そういうこと」


 フォーマの目が鋭くなる。


「下手に動けば、相手は計画を変更する」

「ならば……」


 シシリアが言う。


「卒業パーティまで、こちらは普通に振る舞う」

「そう」


 フォーマは頷いた。


「ただし」


 その声が低くなる。


「今後より一層カーチャを一人にしない」

「もちろん分かっているさ」


 ニコラスが答える。


「私たちが交代でお側にいます」

「私も」


 マリアンヌとエレノアが頷く。


「何か起こればすぐに誰かを呼びましょう」


 アーサーも続いた。


「ありがとうございます」


 エカテリーナが微笑む。


「皆さんがいてくださって、本当に心強いです」

「それはこちらの台詞ですよ」


 ニコルが笑った。


「エカテリーナ様が戻ってきてくださって良かったです」



◇


 だが同じ頃、別の場所では。


「準備は進んでいるか?」


 マルケールが尋ねていた。


「はい」


 側近の一人が頷く。


「予定通りです」

「証拠は?」

「用意できます」

「証人は?」

「こちらで何人か」


 マルケールは満足そうに笑う。


「ならば問題ない」


 その隣バーバラが不安そうに尋ねた。


「本当に……大丈夫なんでしょうか?」

「心配するな」


 マルケールは彼女の肩を抱く。


「卒業パーティには、多くの貴族が集まる。そこでエカテリーナの正体を暴けばいい」

「……はい」


 バーバラは笑った。


「これで……」


 これでエカテリーナを追い出せる。

 そう思っていた。



◇


 夜。

 フォーマは一人、窓辺に立っていた。

 目を閉じ魔力を広げる。

 王太子。

 バーバラ。

 その側近。

 そして王太子の周囲を監視している王家の陰。

 全てが薄い魔力の糸で繋がっている。


「……」


 フォーマは、その糸を辿る。

 だが途中で別の糸を見つけた。


「……?」


 あまりにも細い。

 それはマルケールではなくその周囲にいる何人かの子息令嬢へ伸びている。


「これは……」


 フォーマが目を細め少し調べる。


「……なるほど」


 王太子側の人間をさらに誰かが監視している。

 その魔力の癖からおそらく国王側。


「王家も本格的に動いたか」


 フォーマは小さく笑った。

 そしてもう一つ帝国側から届いた報告書へ目を落とす。

 そこには卒業パーティに関する情報が記されていた。

 フォーマの表情が変わる。


「……」


 報告書の最後。

 そこに書かれていたのは、王太子側が準備しているものとは別に、王宮側も卒業パーティに向けて人員を増やしている。

 という情報だった。


「……面白くなってきた」


 フォーマは報告書を閉じた。

 どうやら卒業パーティには、

 王太子側。

 エカテリーナ側。

 王家。

 そして帝国。

 それぞれの思惑を持つ者たちが集まることになる。


 ならばその舞台で一番大きな秘密を明かすのは──自分だ。


「あと10ヶ月」


 小さく呟いた。

 卒業まで残り10ヶ月そして、エカテリーナがこの国で背負わされてきた全てを終わらせる日まで。


 あと10ヶ月、フォーマは静かに目を閉じた。


「……もう少しだよ、カーチャ」


 その声は誰にも届かなかった。

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