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5.じゃじゃ馬とドラゴン

なかなか進展しません…


いつもと比べると短めです。


今回はコメディタッチながらもシリアスな描写があります。


苦手な方はお控え下さい。m(_ _)m

…歌が聞こえる。

自身の中から湧き出るように、何処からか聞こえてくる綺麗なソプラノが懐かしい歌を奏でる。

覚えてる。これはさっき私が歌った、加護を授ける歌。この歌は、旅人に加護をもたらす歌であり、結ばれなかった二人が紡いだ愛の告白なのだ。加護をもたらすことで有名だが、私は哀切と郷愁をにじませた曲調にどうしようもなく惹かれるのだ。

まるで、子どもが子守唄を求めるかのように。

だけど、今聞こえる歌声は私よりもっと高く、そして澄んでいる。聞いたことが無いはずのその声が、何故かとても愛しく感じる。

長い間探し続けた自分の半身を見つけたら、こんな気持ちになるのだろうか。


いつしかその歌声は止んでいて、私の目には雫が溢れていた。

…何故、私は泣いているのだろう。どうして、さみしいと感じるのだろう。どうして…こんなにも愛しいと感じるのだろう。

分からない。自分の気持ちのはずなのに、自分では分からないことで胸を締め付けられる。

苦しい…苦しい、誰かーーー


うっすらと目を開けると、目の前に雪のような純白しろが現れる。私を襲ったと思われる『色無し』のドラゴン。

…また私を狙うのだろうか。ぎりりと睨みつけるも、そのドラゴンは慈愛に満ちた目をしていた。さながら我が子を見守る親のように。


「…?……うぎょっっっ?!」


え?!何これ?いきなり頬を舐められた?!

嘘だろ?!ドラゴンが頬を舐めるのは子どもか番としたものだけ。ーーつまり、愛情を注ぐものだけ。

私はいきなり攻撃されたからこのドラゴンにとって敵であるはず。それなのに頬を舐めるとか……態度が変わりすぎだろ。


悶々と考えている間にドラゴンの唾液によって顔がドロドロになっている。おいおい、ヨダレが服にまで垂れてるし。


「ちょっ……いい加減にしろ!!このままじゃ服まで汚れるから、これ以上舐めるのは禁止!!

それにいきなり私を襲ってきたくせに、なんで頬を舐めるんだ!!これは愛情を示す行動だろ!?行動が矛盾してるじゃないか!!」


あまりにムカついたので、目の前にいるのがドラゴンだということを忘れて一気にまくし立てる。ドラゴンの機嫌を損ねれば、人間の私なんて簡単に殺されてしまうだろう。そんなことは百も承知。

だが、いくらドラゴンとはいえ、やって良いことと悪いことがある。背後から不意打ちしたのに、次に会ったら態度がコロっと変わっているのだ。これは何らかの説明があって然るべきだ。


いうべきことは言ったが、それでも腹の虫が収まらずに睨んでいると、突然ドラゴンが笑い出す。出会った時の威圧感が嘘のように。まさに破顔一笑という感じで。


『面白い……顔はあいつに生き写しだから大人しい女子かと思っていたが……お主はなかなかのじゃじゃ馬のようだ。

ふむ……私にやさぐれた孫がいたらこんな感じか…?』


脳裏に不思議な声が響く。落ち着いたテノールの声。

……何故だろう。聞いてると、ものすごく安心する……って、そんなことではなく!!


「初対面でじゃじゃ馬とは失礼な!!私はこれでも軍人の端くれだ!女々しい振る舞いをするつもりはさらさら無い!!

それにまだいきなり襲われた理由を伺っていない!やさぐれた孫などとのたまう前に先に言うべきことがあるのでは!?」


そう、まず最初に言うべきは謝罪と状況説明。いつの時代においても報告・連絡・相談の『報連相ほうれんそう』は基本だ。

…さて、やりたい放題やったヤツの報連相ほうれんそうはどんなものになるやら。


私の黒いオーラを感じてか、ドラゴンが慄いた気配がする。

当然だろう。私は軍人だが、専門は捕虜の取り調べだ。戦を未然に防ぐために、敵の間者を捕らえる度に尋問してきたのだ。間者は大抵月に一度は見つかるが、多い時には三日おきに発見された。その都度尋問するのだ。これで得意にならないはずがない。

一つ選択を間違えれば、領民達が苦しむこととなる。実際数代前の領主は情報不足のせいで誤った判断を下し、その結果領地を壊滅状態に陥らせた。ようやく事態が落ち着いた頃には三分の一の人間がな亡くなっていた。

…愚かな領主も含めて。


正確な情報程、戦に不可欠なものは無い。

だが、それを手に入れるのは至難の技だ。敵国にスパイを潜り込ませるか、逆に相手のスパイから情報を得るしかないからだ。

どちらかというと、潜入の方がより確実に情報を得られる。しかし、潜入は常に死の危険が付きまとうし、女であるには必要があれば身体を使わなければならない。死の危険はともかく、一応領主の娘である私が不特定多数の人間と関係を持つのは許されない。

だから、私は自ら間者を捕らえ、尋問することにしたのだ。綺麗事だけでは隣国の脅威から領地を守れない。領主の娘だから私は死の危もなく、好きでもない男に身体を開くこともない。だが、私の代わりに身を危険に晒す人がいるのだ。私だけのうのうと大人しく守られる訳にはいかない。


領主の娘だから守られるなら、領主の娘にしかできないやり方で領地を守る。


それが私の覚悟だ。そう思って長年汚れ仕事を担ってきたのだ。

だから、相手がドラゴンといえど、逃がすわけが無い。納得のいく説明がならされるまでじっくり追い詰めることにしよう。


ーー私を怒らせてただで済むと思うなよ?愚かなドラゴン殿よ。だてに『騎士姫』の二つ名を持っているのではないのだーー




エルティーアの女の子らしくない理由が少し明かされました。


彼女は伯爵令嬢らしからぬ、過酷な経験をしています。しかし、それで挫けないところが彼女の魅力なのです。


そんな彼女の分かりにくい魅力が伝わればいいなと思います。

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