表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王メイド・エクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第九章:闇に芽吹く信頼

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

194/253

◆第181話:時と空間の芽◆

ヴァルザの書斎に戻り、腹を満たしたリゼル。

書斎には横手に続く部屋があり、豪奢なベッドが据えられている。

そこは、リゼルが“温かみ”を感じる場所でもあった。


月が昇り、眠る刻。

ベッド脇に魔法書を寝かせ、ランプ型術具に灯を入れる。

横になり、魔法書の背表紙を見つめながら今日を振り返る。


「魔法が使えないなんて……」

「いえ。魔法が使えなくても“使命”を果たせる手段を考えないと」


初めての挫折は未だ胸を焦がしている。けれど、視線は前を向いていた。

ヴァルザの残した資料から読みとった使命を果たすために、あらゆる手段を使うと決めていた。


まぶたが重くなる。

「明日、考えますか……」

背表紙を見つめながら意識が落ちかけ――


「……あれ? この背表紙の下に……何か、書かれて……」

擦れた文字の輪郭が、灯の揺れで一瞬だけ浮いた。

そのまま眠りに落ちた。本能には抗えない。



朝――太陽が昇る。

神領は魔の霧が常に立ちこめ、薄暗いが時折光が差す。

やわらかな日差しに、リゼルはパチッと目を開いた。


「寝落ちていましたか……」


枕元の魔法書を取り上げ、背表紙をじっと眺める。


「“魔術師の魔法理論”……の下に、擦れた文字が」

「じょう……かん……」


そのまま口に出し、寝起きの頭でぼんやりと思考を巡らす。


「………」

「――上巻、ですって!」

見開いた金の瞳が輝く。

「まさか、続きがあるのですか!」


リゼルはベッドを飛び降り、急ぎ足で本棚へ向かう。

「この本はここに……続きが、ない……」

「探さねば!」


棚の隅々、積み上げられた本の山を一冊ずつ確かめていく。

「見つからない……まだ、まだ」


 ◇


「ここが最後ですね……」

最後に辿り着いたのはヴァルザの書斎机。

「楽しみにして、後回しでしたが……」

いつか読む“ご褒美”を、いま切り崩す。


積まれた本の中に――


「……これです!」


“魔術師の魔法理論・下巻”。上巻と同じ装丁。

胸が高鳴る。ページをめくる。


「次なるは、更に希少な魔法が――」

指で一文をなぞり、声に出す。


「早速、実験です!」


書斎を飛び出し、魔法書を抱き走る。

地下への階段を下り、裸足で石の回廊を駆ける。

昨日、涙を落とした実験場へ急ぎ向かう。


「はあ、はあ……すぅ~、はぁ~……」

汗を拭き、深呼吸をして呼吸を整える。

それでも胸の高まりはさほど収まらなかった。


魔法書の下巻を読み、最初の魔法式を頭に入れるリゼル。


「まずは……星属性」

大きく息を吐き、吸う。

魔法式を思い描き、魔力を手のひらへ。


「――コメット!」


……何も起こらない。


「まだまだ。ここからです……!」


 ◇


記述順に次々と試す。だが、発動しない。

兆しすら出てこない。


残りは二つの属性。

そう、もう二つしかないのだ。


「時と、空間……か」

半ばあきらめの影がよぎる。それでも挑む。


「まずは、時属性」

焦る心を押し沈め、意識を一点に細く集める。


「――クロノ・アシュータ」


魔法名を唱えた瞬間――視える世界が、変わった。

空気に舞う微細な塵が、ゆっくりと煌めき始める。

世界が遅い。代わりに、心臓だけがうるさい。鼓動が耳の奥を叩いた。


「こ、これは……!」


異変に思わず一歩、後ずさる――つもりだった。


ズザザァ――。

想定より遠くまで滑る。

「あつっ、痛っ!」


裸足の足裏が石で擦れ、反射的に体勢を崩す。

床を転げ、壁にぶつかり、視界がぐるぐると混線する。

止めることができず、制御不能になっていた。


やがて――

魔法の効力が切れた。


「はぁ、はぁ……ひどい目に遭いました」

「痛たた……」


全身がずきずきと訴える。

だが――胸は高鳴る。


「――ついに、見つけました!」


「わたくしの適性……わたくしの属性は……」

「時魔法……なのですね」


頬を伝う涙。

「ぐす……ちゃんと、あってよかったぁぁぁ……」


歓喜が震えに変わり、両手で顔を覆って泣いた。

膝から崩れ落ち、床に座る。

これまでの焦り、悩みが泣くたびに溶け出していくようであった。



ひとしきり泣いて、深呼吸。

床に置いていた下巻を拾い、先ほどの魔法効果を確認する。


「なるほど。自身のみ――身体動作、反応、思考を短時間だけ加速」

「……大切に、育てましょう」


愛おしげな眼差しで文字を追う。


「そういえば、最後の属性がひとつ残ってましたね……」

「一応見ておきますか、今回は攻撃系で……」


手を掲げる。

魔力を収束させ、魔法名を唱える。


「――ディメンション・スライス」


魔力が放たれた感覚があった。

だが、目には見えない。


「? もう一度」


今度は壁のランプ型術具を標的にする。


「――ディメンション・スライス」


スパッ、と切断線が走る。

ランプは二つに割れ、ガシャン、と床へ落ちた。


「なんと! 空間魔法にも適性が……」

「時と空間……ふふ」


喜びが胸に満ちる。

まさに力を得た瞬間であった。


「あとは、どちらが“秀で”なのか」

床に座り、段取りを整える。

「外で試すとしても、極大の魔法なら――魔導戦具が欲しいところですね」

「今日はこのまま訓練。明日、探索を再開しますかね」


独り言を終え、ページを閉じる。

昨日の自分をひとつ越え、神の子はまた前へ進む。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ