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# 第二十一話 祝賀の前夜

# 第二十一話 祝賀の前夜


戦勝祝賀の、前日の夜。


王宮の御所、王太后陛下のお部屋。


私と、アルフレート様、ヴィルヘルム公爵、父アーデンフェルト侯爵、それから、ヴェルナー卿は、王太后陛下と王陛下御自らの御前に、参じた。


王太后陛下は、白髪に金の冠を戴かれ、深い、慈しみの瞳で、私たちを迎えてくださった。王陛下は、その隣で、深く頷きながら、ヴェルナー卿の奏上を、最後まで、お聞きくださった。


「シャルロット公爵夫人」


王陛下が、私の名を、お呼びになった。


「あなたの母御エレオノーラ侯爵夫人は、王国の北部辺境で、二度の飢饉を乗り越えるために、王宮への上申書を、何度も、書いてくださった。私は、彼女のお力を、深く、信頼しておった。彼女のご逝去の報は、王国の損失であった」


「畏れ多きお言葉、ありがたく」


私は、深く、頭を下げた。


「そして、彼女が、毒殺されていたとは──」


王陛下のお声には、抑えきれない怒りが、滲んでいた。


「明日の戦勝祝賀の場で、その真相と、新たに進行中の謀略の全貌を、すべて、暴くがよい」


「畏まりました、陛下」


私は、再び、深く、頭を下げた。


王太后陛下が、私のほうへ、静かに歩み寄られた。


「シャルロット」


「はい、王太后陛下」


「あなたは、本当に、強い娘になられましたね」


王太后陛下のお手が、私の頬に、そっと、触れた。


「私は、エレオノーラの友人でもありました。彼女は、生前、よく、あなたの話を、私にしておった。──『私の娘は、控えめで、けれど、芯が強い子です。いつか必ず、自分の道を、自分の手で、選ぶ娘になるでしょう』と」


私の瞳から、涙が、溢れた。


「お母様……」


「シャルロット、明日、エレオノーラのために、戦いなさい。──私たちが、必ず、あなたを、お守りします」


「ありがとうございます、王太后陛下」


私は、深く、頭を下げた。


その夜、私たちは、王宮の御所を辞して、グリュンヴァルト公爵邸へ、戻った。


公爵邸の応接間には、すでに、明日の証言者たちが、集まっていた。


ガルベルト先生、クルツ、ヘルガ、アンナ、ベアトリス、ロザンナ、ハインツ、マリエッタ、ヤン、バルト卿。それから、王立学院の同僚に伝言を頼んで、トビアス・カーンも、駆けつけてくれていた。


そして、応接間の一番奥、扉口の近くに──。


エミール・ラントシュタインが、ひっそりと、立っていた。


「エミール様」


私は、彼の前に、歩み寄った。


「シャルロット様」


エミールは、深く、頭を下げた。


「私は、明日、王宮の祝賀広場で、ひとつ、証言いたします。私は、自分の妻、イザベラ様の、過去の言動と、最近のお動きを、すべて、王陛下の御前で、証言いたします。──私の妻が、私との結婚生活において、私の知らぬ場所で、どのような謀略を進めておられたか、私は、知る限り、すべてを、お話しいたします」


「エミール様」


私は、彼の手を、両手で、取った。


「ありがとうございます」


「いえ、シャルロット様」


エミールは、深く頭を下げた。


「ご恩を、お返しする時が、ようやく、参りました」


私は、彼の手を、強く、握った。


──エミール。


私は、心の中で、彼の名を、呼んだ。


あなたは、前世も、今世も、私にとって、忘れられない人です。


あなたが、ご自分の人生を、自分の手で、立て直されることを、私は、心から、お祈り申し上げます。


応接間の中央で、私は、明日の段取りを、もう一度、皆に、説明した。


「私が、まず、毒杯を、受け取ります。けれど、口には、つけません。私が、紅玉色の祝杯を、見つめながら、王陛下の御前に、立ち、その瞬間に、皆さんの証言が、始まります。──マリエッタ、最初の証言を、お願いします」


「畏まりました、奥方様」


「ヤン、戦地での伝令の動きから、お姉様とお継母様の、過去半年の謀略の全容を、ご説明ください」


「畏まりました」


「バルト卿、あなたは、ご名誉回復の経緯と、お継母様のご実家キール家からの偽造文書について、ご証言ください」


「畏まりました」


「クルツ、ヘルガ、ガルベルト先生」


「はい」


「お母様の、お薬の分析記録、毒物の出処、それから、お母様のご逝去の前後の状況。すべて、王陛下御自らの御前で、ご証言ください」


「もちろんでございます」


「エミール様、王立学院の試験汚職、それから、最近のお姉様のお動きについて、ご証言ください」


「畏まりました、シャルロット様」


「トビアス。あなたは、王立学院の試験官の汚職について、ご証言ください」


「シャルロット様、必ず」


私は、皆を、見渡した。


「皆さん、明日の戦勝祝賀は、戦勝の祝いの場でありながら、同時に、アーデンフェルト侯爵家の、長年の闇を、暴く場でもございます。──皆さんのお力を、お貸しくださいませ」


応接間に、深い、頷きが、満ちた。


そして、皆が辞して、応接間が、私とアルフレート様だけになった時──。


「シャル」


アルフレート様は、私の前に、跪いた。


「アルフレート様?」


「明日、君は、世界の舞台に、立つ」


彼の瞳が、私を、深く、見上げていた。


「君は、母御の娘として、自分の真実を、世に出す。──それが、世界の歴史に、記される瞬間だ」


「アルフレート様、私は……」


「シャル、聞いてくれ」


彼は、私の両手を、両手で、包んだ。


「私は、君の隣に、立つ。明日、君が、毒杯を見つめて立つ時、私は、君の傍らに、立っている。君の証言が、進む間、私は、近衛騎士団全体の指揮を執って、君を、お守りする。──そして、すべてが終わった後で」


彼の声が、低くなった。


「君と、新しい朝を、迎えよう」


「アルフレート様」


私は、彼の前に、自分も跪き、彼の頬に、両手を、添えた。


「私は、あなた様と共に、新しい朝を、迎えとうございます」


蝋燭の灯りが、彼の瞳に、温かく、揺れていた。


そして、その夜。


私は、アルフレート様の、強く、優しい腕の中で、しばらく、目を閉じていた。


お腹の中の、まだ目に見えない、新しい命が、私と一緒に、明日の朝を、待っていた。


──お母様。


私は、心の中で、母に、呼びかけた。


明日、私は、お母様を、解き放ちます。


そして、お母様の、本当の名誉を、王国の歴史に、刻みます。


夜が、ゆっくりと、深まっていった。


王都の遠く、王宮の祝賀広場では、最後のリハーサルが、終わろうとしていた。


楽団の、低く長い、ワルツの旋律が、雪の中を、薄く、流れていった。


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