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# 第二十話 義姉の凶行計画

# 第二十話 義姉の凶行計画


アルフレート様の戦勝の報せから、十日。


王都は、雪に深く包まれた中で、戦勝祝賀の準備に、沸き立っていた。王宮広場では、銀色の旗が立てられ、雪の上に赤絨毯が敷かれた。楽団が、毎晩、リハーサルを重ねていた。


そして、その十日の間に──。


私は、姉と継母の最後の動きを、すべて、把握していた。


ヴェルナー卿、マリエッタ、ヤン、バルト卿──彼らが、それぞれの伝手を駆使して、姉と継母の動きを、刻一刻と、私に伝えてくれた。


「シャルロット様」


ある夜、ヴェルナー卿が、私室を、訪れた。


「お継母様、レーゲンシア様が、本日、王宮の侍従長への賄賂を、お渡しなさいました。目的は、戦勝祝賀の祝杯の配膳順を、操作すること」


「祝杯の配膳順──」


「具体的には、王陛下、王太后陛下が乾杯をなされた直後、シャルロット様、奥方様の前に、特別な紅玉色の祝杯を、お運びすることでございます。お継母様は、王太后陛下の御使いの侍女に、その祝杯を運ぶよう、指示なさっておられます」


私は、扇を、ゆっくりと、閉じた。


──前世と、同じ構図。


姉と継母は、本当に、前世のあの夜を、再現しようとしている。


王宮の祝宴。私が栄誉を受け、皆の前で笑顔で立っている、その瞬間に、毒杯を、私の前に、運ぶ。前世では、それが、義姉自身の手だった。今度は、王太后陛下の御使いを装った、買収した侍女の手で。


「ヴェルナー卿、その買収された侍女の名前は、判明していますか」


「はい。──ノエル・カーティスの妹、エマ・カーティスでございます」


「妹……」


私は、深く、息を、吐いた。


ノエル・カーティスは、前回のマリエッタ濡れ衣事件で、断罪された。彼女の妹エマもまた、王宮の侍女に上がっており、姉に習って、姉と継母の手駒に、なっていた。


──姉も、継母も、前回の失敗から、何も学んでいない。


同じ家から、同じ手駒を、再び、動かしている。


「ヴェルナー卿、エマ・カーティスの内偵を、王太后陛下に、お願いしてください。本人を尋問するのではなく、彼女が、姉と継母から、いつ、どのような指示を、受けているか、その経過を、すべて、記録するのです」


「畏まりました」


そして、その夜、別の動きも、あった。


「シャルロット様」


マリエッタが、私の私室を、訪れた。


「ラントシュタイン男爵家のエミール様から、お便りが、届いております」


「エミール様から?」


私は、首を、かしげた。


エミールは、王立学院を二位で卒業した後、王宮の文官試験に向かって、勉強していると、ヴェルナー卿から聞いていた。義姉との家庭の問題は、依然として、深刻だった。


私は、手紙を、開いた。


「シャルロット公爵夫人


恥を忍んで、お便り申し上げます。


私は、本日、義姉君──私の妻イザベラ様の、不審なお動きを、目撃いたしました。私の家庭教師経由で、王宮の文官部にもご連絡しておりますが、念のため、シャルロット様にも、直接、お伝えしたく、筆を執りました。


イザベラ様は、最近、夜中に屋敷を抜け出されることが、多くございます。私が、密かに後をつけたところ、お継母様、レーゲンシア様のご実家、キール家の屋敷に、たびたび、参っておられます。


そして、本日、私は、屋敷の倉庫に、奇妙な小瓶を、見つけました。茶色のラベルに、『曼陀羅華の精』と書かれておりました。私は、その小瓶の存在を、王宮の文官部に、ご報告いたしました。


シャルロット様、私は、決して、イザベラ様を、庇うつもりは、ございません。私は、私の妻が、過去にも、現在にも、何かしらの謀略に、関与なさっていることを、知っております。──私は、私の妻に、自らの罪を、認めて、罰を受けていただくことが、最も、人としての筋であると、信じております。


そして、シャルロット様。これまで、ご支援を、本当に、ありがとうございました。私は、王宮の文官試験に合格した暁には、私の人生を、私の力で、立て直したく、存じます。


──エミール・ラントシュタイン」


私は、手紙を、握り締めた。


──エミール。


私は、心の中で、彼の名を、呼んだ。


あなたは、ようやく、自分の人生を、自分の手で、生きる方法を、学ばれましたね。


そして、あなたは、姉の罪を、見過ごさずに、私と王宮に、報告してくださった。


エミールが、姉を見限ったのは、この十日の間に、姉が、明らかに、王宮への謀略を進めていたからだ。エミールは、賢い青年だ。彼は、姉が、王宮の戦勝祝賀で、何かをやらかすことを、予感していた。そして、彼は、自分の家庭の崩壊よりも、王国の秩序を、優先した。


「シャルロット様」


マリエッタが、私の傍らで、囁いた。


「お姉様の、ご家庭は、もう、ほとんど、崩壊しておられます。エミール様は、来春の文官試験に合格なさったら、即座に、離縁を、申請なさる予定とのこと」


「そう」


私は、深く頷いた。


──姉の人生は、すべての方角から、終焉に、向かっている。


姉は、エミールに、見限られ、義実家に、嫌われ、侯爵家にも、戻る場所を、失っている。そして、最後の希望として、私を、もう一度、殺そうとしている。私を殺し、私の生んだ命──まだ生まれぬお腹の子──を、消すことで、姉は、自分の選択の正当性を、何とか、取り戻そうとしているのだ。


けれど、それは、絶対に、叶わない。


私は、深く、息を、吐いた。


そして、私は、最後の準備に、入った。


その夜、グリュンヴァルト公爵邸の応接間で、私は、すべての関係者を、集めた。


アルフレート様(戦勝後、すでに帰還しておられた)、ヴィルヘルム公爵、父アーデンフェルト侯爵、ヴェルナー卿、マリエッタ、ヤン、バルト卿、クルツ、ヘルガ、それから、ガルベルト先生、アンナ。


「皆さん」


私は、扇を閉じて、ゆっくりと、立ち上がった。


「明日、王宮の戦勝祝賀の場で、姉と継母は、私を、毒殺しようと、しております」


応接間に、緊張が、走った。


「私は、そのまま、毒杯を、受け取ります。──ただし、私は、毒を、飲みません。代わりに、その場で、姉と継母の罪を、すべての証言と、すべての証拠で、暴きます」


「シャル」


アルフレート様の声が、震えた。


「君を、危険に、晒すのか」


「アルフレート様、これは、最後の戦いでございます。私は、自分の手で、姉と継母を、断罪しなければなりません。──皆さんに、お力を、お貸しいただきたく、お願い申し上げます」


私は、深く、頭を下げた。


「マリエッタ。あなたは、王太后陛下のおそばに、控えてください。エマ・カーティスの動きを、目で追ってください」


「畏まりました」


「ヤン。あなたは、近衛騎士団の同僚と共に、祝賀広場の周辺の警備を、強化してください。姉と継母が、逃走することを、防いでください」


「畏まりました」


「バルト卿。あなたは、王宮の祝賀広場の入口で、お控えくださいませ。──姉と継母の最後の証人となる方、ガルベルト先生を、ご護衛くださいませ」


「畏まりました、奥方様」


「クルツ、ヘルガ。あなた方は、お母様のお薬の処方箋帳と、毒物の分析記録を、王陛下御自らの前で、ご証言くださいませ」


「もちろんでございます、お嬢様」


「ヴェルナー卿。あなたは、王太后陛下と王陛下に、すべての段取りを、事前にお伝えくださいませ。明日の祝宴は、戦勝祝賀でありながら、同時に、アーデンフェルト侯爵家の長年の秘密を、解き明かす場でも、ございます」


「畏まりました」


私は、深く、頭を下げた。


「皆さん、明日、私を、お守りくださいませ。そして、お母様の真実を、世に出すために、お力を、お貸しくださいませ」


応接間に、深い、力強い、頷きが、満ちた。


その夜、アルフレート様は、私を、長く、抱きしめた。


「シャル」


「はい」


「明日、君が、毒杯の罠に、足を踏み入れる時、私は、君の隣に、立つ」


「アルフレート様」


「私の腕の中で、君を、守る」


私は、頷いた。


「ありがとうございます」


そして、その夜。


私は、私室で、母の銀の髪飾りを、もう一度、額に当てた。


「お母様」


私は、囁いた。


「明日、すべてが、終わります」


「そして、お母様の、本当の姿を、世にお返しいたします」


蝋燭の灯りが、銀の髪飾りの上で、静かに、揺れていた。


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