7、”たいくつ”と外の世界
今日は、ルークのお仕事の日。
私はひとり、静かな家で過ごしていた。
窓の外では、しとしとと雨が降っている。
今日は、ブランも来ない日。
(……たいくつ、だなぁ)
ふと、そんな言葉が浮かぶ。
――“たいくつ”。
これも、ルークが教えてくれた気持ち。
楽しいことがないときに、そう思うんだって。
その言葉を思い出した途端、胸の奥がほんのりと温かくなる。
前の私は、こんなふうに感じることなんてなかった。
ルークが帰ってくるのが、楽しみ。
彼と過ごす時間の中で、私はいろんなことを知っていく。
もっと知りたい――そう思うくらいに。
(今日はどんなお話を、聞かせてくれるのかな)
やがて日が傾き、外がゆっくりと闇に沈んでいく頃。
――ガチャッ。
ドアの開く音。
(あ、ルークだ!)
私はすぐに駆け寄って、彼に抱きついた。
ルークはいつも通り優しく頭を撫でてくれる。
「ただいま、リシェル」
「ルークおかえり!」
それだけで、胸がふわりと満たされる。
「……ああ。いつも通りだ。今日は、魔物退治をしていた」
「うわぁ……図鑑で見たよ。怖い生き物たちだよね」
「リシェルには近づけさせない。だから大丈夫だ」
その言葉に、なぜだか少しだけ安心する。
「えへへ、ルークってすごいね!」
“外”で働くルークはいつも大変そうなのに、平然とこなしてしまう。
――本当に、かっこいい人だと思う。
「あ、そうだルーク! 外ってどんな感じなの? 本で読んだんだけど、海とか、いろんな生き物がいるんでしょ?」
その瞬間、ルークの笑顔が少しだけ固まった。
(ルーク……?)
短い沈黙。
どうして答えてくれないのか、わからないまま。
彼は、ゆっくりと口を開いた。
「リシェル……外に出てみたいか?」
外――その言葉を、ゆっくりと頭の中で転がす。
考えたこともなかった。
王宮にいた時も、ずっと部屋に篭っていてあの場所から出たことなんてなかったから。
今だって、こうして家の中でルークのことを待つ生活を、当たり前に思っていた。
でも――。
もし、出てもいいのだとしたら?
(出てみたい……かも)
世界を見てみたい。
ルークと同じ空の下に立ってみたい。
そう思って顔を上げかけた、そのとき。
ルークの表情が目に入った。
……苦しそう。
胸が、きゅっと締めつけられる。
もしかして、ルークは私がここから出るのが嫌なのかな。
前にも他の人について行かないか心配だなんて言っていたし。
理由はわからない。
でも――ひとつだけ、わかることがある。
ルークが嫌がることは、したくない。
だって、私の一番の願いは。
外へ出ることじゃない。
――ルークのそばにいること。
だから、答えた。
「ううん、行かない」
「え……?」
「だって、ルーク……行ってほしくないって顔してる」
「……!」
驚いたように目を見開く彼を見て、自然と笑みがこぼれる。
「わたしにとってはね、外よりも……ルークが全部なの。だから、興味なんてないよ」
「……リシェル」
彼は一歩近づいて、そっと私を抱きしめた。
その腕は、少しだけ強くて。
「えへへ……あったかいね」
胸の奥が、じんわりと満たされていく。
この気持ちの名前を、私はまだ知らない。




