6、”しっと”とは?
今日は、ルークのお休みの日。
外は雲ひとつない青空で、太陽の光が心地いい。
「ねぇルーク! 今日は晴れてるし、ブランが来てくれると思うよ!」
「……そうか。それは、楽しみだな」
そう言うルークの声はどこか硬くて、笑顔もぎこちない。
「ほんとに? 本当に楽しみ?」
「ああ、もちろん」
そう言いながらも、ルークの視線はどこか泳いでいた。
(……変なの)
首をかしげた、そのとき。
――コトッ。
窓のほうから、小さな音がした。
「あ……!」
胸がぱっと明るくなる。
「きっとブランだよ!」
思わずルークの手を引いて、窓辺へ駆け寄る。
そこには――
いつもの、白い影。
「やっぱり、ブランだ! ねぇ、見てルーク! ブランだよ!」
けれど。
ルークは、その場でぴたりと止まった。
「……え」
空気が、わずかに固まる。
「ルーク?」
「いや、その……は?」
ルークは顔を手で覆った。
みるみるうちに、耳まで赤く染まっていく。
「ルーク!? 熱でもあるの!?」
私は慌てて彼のおでこに手を当てた。
慌てて額に手を当てる。
ほんのり熱い。でも、熱がある感じじゃない。
「うーん……違うみたい」
「……違うんだ、リシェル」
指の隙間から、くぐもった声が落ちる。
「その……あれだ」
「ん?」
「ブランって……猫、なのか?」
「うん、そうだよ?」
私がにこっと答えると、ルークはその場に力が抜けたようにしゃがみ込んだ。
「ええ!? やっぱり具合悪いの!?」
心配して覗き込むと、彼は顔を覆ったまま、バツが悪そうに呟いた。
「……人間の、男だと思ってたんだよ」
「えぇぇぇぇ!?!?」
思わず大きな声が出た。
(そんなことある!?)
でも――
ふと、思い出す。
「リシェルが知らない誰かと会って、仲良くなって……そのまま、俺のもとを離れてしまうんじゃないかって……」
あのときの言葉。
「……ルーク」
そっと名前を呼ぶ。
「ブランが人間だったら、私がその人と行っちゃうって思ったの?」
少しの沈黙。
やがて――
「......ああ」
ルークは小さく頷く。まだ顔を手で覆ったまま。
「猫ならいいの?」
「……もう、やめてくれ」
弱々しい声。
指の隙間から覗いた顔は、真っ赤で。
息まで、熱を帯びていた。
(人間はダメで、猫ならいいの……?)
よくわからない。
“しっと”って、やっぱり難しい。
でも――
(いつか、わかるようになるのかな)
ルークの気持ち。
ちゃんと、全部。
――そのとき。
窓辺のブランは、静かに二人を見ていた。
金の瞳が、細く歪む。
(へぇ……)
喉の奥で、くすりと笑うように。
(ルークが、そんな顔をするんだ)
金の瞳が、いたずらに細められる。
(――面白いじゃないか)




