5、ルーク、怒ってるの......?
先ほどのやり取りのあと、夕食の時間になった。
けれど、食卓にはいつものような穏やかな空気は流れていなかった。
食器の触れ合う小さな音だけが、やけに大きく響く。
私もルークも、何も言わずに食べ進めていた。
いつもなら。
「今日はどんなことがあったの?」って聞くと、ルークが優しく笑って、いろんな話をしてくれるのに。
今日は、それがない。
(……ルーク、怒ってる)
そう思った瞬間、胸の奥がぎゅっと苦しくなる。
視界がにじむ。
だめだ、って思ったのに――
ぽろり、と涙がこぼれた。
「……っ」
慌てて拭おうとしたけれど、次から次へと溢れて止まらない。
「リ、リシェル!? どうしたんだ!?」
椅子の音がして、ルークがすぐそばに来る。
見上げると。
さっきまでの無表情はもうなくて、いつもの優しい顔に戻っていた。
それを見た瞬間、胸の奥がほどける。
「だって……ルーク......怒ってる、でしょ……?」
声が震える。
「嫌われちゃったのかなって……」
一瞬、ルークの瞳が大きく揺れた。
次の瞬間、ぎゅっと抱きしめられる。
「ごめん……そんなつもりじゃなかった」
耳元で落ちる声は、少しだけかすれていた。
「悲しい思いをさせるつもりなんて、なかったんだ」
その言葉が、ゆっくりと胸に染みていく。
しばらくそのままでいると。
ルークが、ぽつりと呟いた。
「……さっきは、言えなかったけど」
少しだけ間があく。
「……嫉妬したんだ」
「……しっと?」
聞き慣れない言葉に、首を傾げる。
ルークは視線を逸らしながら、言葉を探すように続けた。
「リシェルが知らない誰かと会って、仲良くなって……そのまま、俺のもとを離れてしまうんじゃないかって……」
低く、押し殺したような声。
その響きに、なぜか胸がざわりとした。
「え!? 行かないよ!」
慌てて顔を上げる。
「リシェル、どこにも行かない! ずっとルークと一緒にいるよ!」
その言葉を聞いて、ルークの肩から少しだけ力が抜けた。
「……ありがとう」
小さく息を吐く。
「でも、そう思ったら……胸が苦しくて、どうにかなりそうだった」
一瞬だけ、その声が深く沈む。
何かに縛られているみたいに。
でも、その意味はよくわからない。
だけど......そうだ!
「大丈夫だよ!」
思いついたように、ぱっと顔を上げる。
「そうだ! ルークもブランに会ってみよう!」
「……は?」
一瞬、空気が止まる。
「ブラン?」
「うん! すごくかわいいんだよ!」
笑いながら言うと、ルークの視線がわずかに細くなる。
「……そいつは、女なのか?」
「え?」
「いや……なんでもない」
小さく首を振る。
「で、その……ブランってやつは」
「男の子だよ?」
その瞬間。
ルークの動きが、ぴたりと止まった。
ほんの一瞬だけ。
何かを計算するみたいに、沈黙が落ちる。
「……へぇ」
短い相槌。
けれど、その奥に何かが沈んでいるような気がした。
「ルークも気にいると思うよ! 私も大好きなんだ」
その言葉を口にした瞬間。
ルークの指先が、わずかに強く私の肩に触れたような気がした。
「......そうか」
その返事は静かな声だった。
――そのときの私は、まだ気づいていなかった。
ルークが、致命的な勘違いをしているということに。




