17、あなたは誰ですか?
翌朝、目を覚ますと、私はルークの腕の中にいた。
その温もりを認識した瞬間、どくん、と一度大きく跳ねた。
それだけで胸の奥が熱くなり、呼吸が苦しくなる。
(もう、また心臓がうるさい......!)
たまにこうして、朝になると抱きしめられていることがある。
ルークは決まって、照れくさそうに「無意識だった、ごめん」と謝る。
それが、いつもの朝。
変わらない、穏やかな日常のはず。
なのに今日は、胸の奥がどうしようもなくうるさい。
息が詰まるほどに、心臓が暴れて止まらない。
やっぱり――これが“恋”というものなのかな。
恋がどういうものか、ちゃんとは知らない。本で読んだだけ。
でも、ルークを想うこの気持ちがそれなら、私はきっともう恋をしているのだと思う。
ふと、ルークが腕が微かに動いた。
ゆっくりとまぶたを開き、寝ぼけた声で言った。
「……あ、ごめん。リシェル、また抱きしめてたみたいだ」
耳元で囁かれるその声に、ぶわっと熱が広がる。
心臓が、さらに大きく跳ねた。
なのにルークは気づかず、いつものように穏やかに微笑む。
(……ずるい)
どうしてそんな顔、するの。
いつもより――ずっと、かっこよく見える。
「う、ううん……! 大丈夫……!」
慌てて首を振る。
「ルークに抱きしめられると……安心するの」
「……そうか」
ルークはやさしく目を細めて、小さく笑った。
「ありがとう」
それだけなのに。
胸がいっぱいになって、息が詰まりそうになる。
(……だめだよ、これ)
こんなに苦しいのに。
どうして、離れたいなんて思えないんだろう。
むしろ――
もっと、この腕の中にいたい。
***
その日も、ルークは仕事へ出かけた。
家の中は静かで、私はいつものように一人で過ごしていた。
昼下がり、窓辺から微かな物音が聞こえる。
(あ、ブランかな?)
そう思って立ち上がり、窓辺に視線を移した。
だけど、そこにいたのはブランじゃなかった。
窓の向こうに立っていたのは、白い髪に金の瞳を持つ、ルークと同じくらいの年に見える男の人。
冷たい冬の光を反射するような白い髪が、風にわずかに揺れた。
柔らかく笑ってはいるけれど、その眼差しはどこか鋭く見えた。
(……だ、誰?)
男の人は無言で、ただじっと私を見つめている。
私は恐る恐る窓辺に近づく。
大丈夫――この家にはルークの結界がある。
私とブラン以外は入れないはず。
だから大丈夫......危険なことは起きない.......。
不安を紛らわせるように、ルークからもらった指輪を、無意識にそっと撫でた。
「……あなたは誰ですか?」
震える声で問うと、男の人は少し困ったように微笑んだ。
「俺はシリル。ルークの同僚なんだ」
目があった瞬間、胸の奥がざわざわとした。
どこかで見たことがあるような、金色の瞳。
でも、私はルークの家に来てから、誰にもあったことがない。でもなんでだろう......。
(……この人、知ってる気がする......?)
気づけば、私は窓を少しだけ開けていた。
途端に、かすかに知っている匂いが鼻をくすぐる。
えっ? もしかして――。
「あなたは、ブラン……?」
その瞬間、男の人はくすりと笑った。
「ふふ、正解」
少しだけ、嬉しそうに。
「改めて――俺はシリル。よろしくね、リシェルちゃん」
その笑みを見たとき。
なぜか、胸の奥がざわついた。
ルーク以外のことで、世界が動きはじめた――そんな瞬間だった。




