16、”恋”とは?
結局その日は、ルークの様子はずっとどこかおかしかった。
夜がすっかり更けて、寝る時間になっても、胸の奥に小さな不安が残っていた。
ルークと私は、いつものように同じベッドで眠る。
この小さな家にはベッドがひとつしかない。
だから、夜になると自然と同じ布団に潜り込むのが日課だった。
いつもなら、ルークが優しく私を抱きしめてくれる。
おやすみの“ぎゅっ”――それが私の安心の合図。
その温もりに包まれると、私は朝までぐっすり眠れる。
……いつもなら。
でも、その夜は違った。
抱きしめられた瞬間、心臓が突然早く動き出す。
いつもと同じ腕の温もりなのに――どうして?
どくん、どくん、どくん。
息がうまくできない。
胸の奥で、感じたことのない熱がじわじわと広がっていく。
まるで知らない誰かの心臓が、自分の中で暴れているみたい。
驚いて顔を上げると、息が止まった。
ルークと、目が合ってしまったのだ。
その瞬間、全身が熱くなる。
頬が燃えるように熱くて、指先までじんじんする。
(えっ……わたし、どうしちゃったの……?)
ルークが心配そうに私を覗き込んだ。
「リシェル、どうしたんだ?」
「な、なんでもないっ……!」
声が裏返る。恥ずかしくて、目を合わせられない。
今まで何度もこうして抱きしめられてきたのに――
どうして今日は、こんなにも胸が苦しいの?
だけど、嫌じゃない。
苦しいのに、逃げたいなんて思わない。
むしろ、もっとこの腕の中にいたいと思ってしまう。
(どうして、こんな気持ちになるんだろう……?)
ふと、前に読んだ絵本のことを思い出す。
お姫様と王子様が見つめ合って、心が通じ合う物語。
そのときは、お姫様と王子様の気持ちはよくわからなかった。
ただ、しあわせそうだなって、それだけだった。
でも今なら、少しわかる気がする。
胸の奥で響く、この音の意味が。
その時、ルークの指先が、そっと私の背を撫でた。
びくり、と身体が震える。
胸の奥で何かが弾けて、全身が甘く痺れた。
(なんで……ルークのことで、こんなに……)
ああ、もしかして――
(これが......恋?)
静かな夜の中、自分の鼓動だけがやけに大きく響く。
落ち着かせたくて、ルークの胸に顔を埋めた。
大好きな匂いが鼻いっぱいに広がる。
(あったかい......)
苦しいのに......安心する。ううん――しあわせ。
私の世界は、もうルークがいないと動かない。
ルークに抱きしめられたこの日、私は――恋を知った。
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