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感情を知らない王女は、ヤンデレ魔導師に囲われる ――共依存の果てのしあわせ  作者: ゆにみ


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15/20

15、ルークの様子がおかしい

過去エピから現在に戻ってます。

ルークとシリルと対峙した後の続きです。

 今日もルークは仕事で、私はひとりで留守番をしていた。


 静かな部屋に時計の音だけが響く。

 いつもと変わらないはずの午後。


 けれど、その時――ドアの方から小さな物音がした。


 (……えっ?)


 ルークが帰ってくるには、まだ早い時間のはず。


 胸が、どくんと鳴る。


 息を潜めて、じっと耳を澄ます。


 心臓の音がうるさくて、何も聞こえなくなりそうだった。


 (だ、誰……?)


 怖い。


 身体の奥が、じわじわと震えだす。


 その瞬間、ドアが開き、黒い影が音もなくこちらに歩み寄ってきた。

 私は反射的に背を向け、逃げ出そうとした。


 「た、助けて――!」


 次の瞬間、強い腕にぎゅっと抱きしめられた。

 抵抗しようとしたけれど、その腕の温もりに覚えがある。


 (この匂い……)


 胸いっぱいに広がる大好きな匂い。

 恐怖が、ゆっくりと溶けていく。


 「ルーク……?」


 恐る恐る見上げると、彼の表情は影に沈んでよく見えなかった。


 でも、返事はない。


 ただ、腕だけが強く私を抱きしめている。


 「……ルーク?」


 問いかける声が小さく震える。

 するとルークは、苦しそうに低く呟いた。


 「……リシェルは、ここにいて幸せか?」


 その声は――


 確かめるようで。


 どこか、怯えているみたいだった。


 「もちろん、幸せだよ?」


 迷いなく答える。


 「……そうか」


 短い返事。


 それきり、また沈黙が落ちる。


 私はそっと顔を上げて、彼の瞳を覗き込んだ。


 ――どくん。


 心臓が、大きく跳ねる。


 そこにあったのは、


 痛いくらいまっすぐな――“必要としている”視線だった。


 ルークが、私を求めている。


 私が必要なんだって、わかる。


 それだけで。


 胸の奥が、じんわりと熱くなる。


 うれしい、って思ってしまう。


 ルークは苦しそうなのに。


 (こんなこと、考えちゃいけないのに……)


 それでも、ルークに必要とされること、求められることが......私のしあわせのすべてだった。



 「ごめん……」


 ルークがゆっくりと言葉を継ぐ。


 「前にリシェルが、“ここから出られなくてもいい”って言っただろう」


 「あれが、本心なのか……不安になって」


 「俺が、君を閉じ込めているだけなんじゃないかって」


 少しだけ、腕の力が弱まる。


 まるで、離そうとしているみたいで。


 私は思わず、その服をぎゅっと掴んだ。


 「リシェルは幸せだよ」


 「だって、ルークがいるもん」


 「閉じ込められてなんかいないよ。私が、そうしたいの」


 言い切る。


 そして、少しだけ考えてから続けた。


 「でもね」


 「ルークが一緒に行こうって言ったら、一緒に行くよ?」


 ルークが望むなら、それでいい。


 それが、私の全部だから。


 「……リシェル。君は本当に……」


 言葉は、最後まで続かなかった。


 代わりに、抱きしめる力が強くなる。


 鼓動が重なる音が、静寂の中でやけに鮮明に響く。


 その瞬間、私は確かにしあわせだった。

 この時の出来事を、私はのちにこう振り返る――鳥籠の中でも、光を知らなければ、それは楽園。


 ルークが望むなら、私はこのままでいいの。

 だって、私の世界は最初から、ルークの中にしか存在していないのだから。


 ――ねえ、ルーク。

 あなたも同じように思ってくれているの?


 そうだとしたら、これ以上の幸せなんて、ないよ。


 外の世界よりも。

 ルークの腕の中のほうが、ずっとあたたかい。


 この日、私は気づいたの。


 「ルークがいなきゃ、私だめだよ」って。


 そう気がついた時から、きっともう戻れなかったんだ。

あと5話予定です

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