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感情を知らない王女は、ヤンデレ魔導師に囲われる ――共依存の果てのしあわせ  作者: ゆにみ


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14/20

14、加速する依存(sideルーク)

 それからのリシェルは、俺が少しでも離れることを嫌がるようになった。


 夜。喉の渇きで目を覚まし、ベッドから身を起こした瞬間――


 きゅっと寝巻きを掴まれる。


 「……ルーク?」


 不安げに揺れる瞳。


 (……かわいい)


 求められている。


 それが、どうしようもなく伝わってくる。


 「......リシェル、水を飲みに行くだけだ」 


 「......私も、一緒に行く」


 ああ、本当に――。


 素直で、無垢で。


 こんな存在は、今まで一度も出会ったことがなかった。


 「……わかった。おいで」


 俺はそっと手を差し出した。

 けれどリシェルは、それを取らずに小さく呟いた。


 「......抱っこして」


 ――息が、止まる。


 胸の奥が、じわりと熱を持つ。


 こんなことで、こんなにも満たされてしまうなんて。


 ――喜んではいけないのに。

 日に日に募るリシェルの依存は、俺にとって毒のように甘い。


 それも当然だろう。

 彼女は今まで他人と関わることもなく、ただ食べ、眠り、本をめくるだけの毎日を送っていた。

 比較するものがなければ、それを異常だとも思わない。

 “当たり前”として受け入れてしまう。

 だから、感情が育たなくて当然だ。


 そんな中で現れたのが俺という存在。


 感情を知ってしまった以上、彼女が縋るのは――俺しかいない。


 「......わかった」


 リシェルをそっと抱き上げる。

 彼女は小さな手で俺の服をぎゅっと掴む。


 (……ああ)


 本当に、かわいい。


 本当なら。


 リシェルの不幸を、終わらせてやるべきなのに。


 リシェルの世界は、あの閉ざされた世界に俺”という存在が増えただけ。

 状況は何ひとつ変わってはいないのだ。


 その事実から、俺は目を逸らした。


 そして――その不幸の上に立ちながら、必要とされる喜びに酔っていた。




 ***




 リシェルとの生活に慣れ始めた頃、彼女に小さな変化が生まれた。


 「ねえねえ! 外ってどんな感じ?」

 「本で読んだんだけど、海とか、いろんな生き物がいるんでしょ?」」


 瞳を輝かせて問いかけてくる。

 ――外に、興味を持ち始めたのだ。


 けれどリシェルの存在が人々に知られれば、たちまち命が脅かされるだろう。

 それほどまでに王族への憎悪は深い。


 俺の魔法を使えば、姿を偽って外へ連れ出すこともできる。


 ……だが。


 怖いのは、そこじゃない。


 外の世界を知れば。


 俺以外のものに触れれば。


 リシェルは――


 俺を、必要としなくなるかもしれない。


 (……それが、怖い)


 だが、このまま閉じ込めておくのもまた――残酷だ。


 リシェルの幸せを願うなら。


 俺の欲を優先するべきではない。


 喉の奥が、締めつけられる。


 「リシェル……外に出てみたいか?」


 思い切って尋ねると、彼女はしばらく黙って俺を見つめてきた。


 息が詰まる。


 やめてくれ。


 早く答えてくれ。


 俺の決意が――揺らぐ前に。


 けれど返ってきたのは、意外すぎる言葉だった。


 「ううん、行かない」


 「え……?」


 「だって、ルーク……行ってほしくないって顔してる」


 「……!」


 見抜かれていたいたのだ。

 目を見開く俺に、リシェルは小さく笑った。


 「わたしにとってはね、外よりも……ルークが全部なの。だから、興味なんてないよ」


 ――嘘だ。

 本当は世界を知りたがっていることくらい、俺にはわかっている。

 それでも俺を優先したのだ。


 (この言葉に、喜んではいけないのに......)


 その事実に、安堵している自分がいる。


 リシェルの世界を狭めているのは俺だ。

 間違っていると、頭では理解している。


 ……それでも。


 俺はその言葉に甘えてしまう。


 「……リシェル」


 そっと彼女を抱きしめると、リシェルは安心したように身を委ねてきた。


 「えへへ……あったかいね」


 もう、手放せない。

 俺は気づいてしまったのだ。


 ――この胸を締めつける感情の正体に。


 それは愛なのか、それとも鎖なのか。

 答えを出すのが、怖かった。





 ***




 ある日、仕事から戻ると、いつものようにリシェルが飛びついてきた。


 「ルーク! おかえりなさい!」


 「ただいま、リシェル」


 けれど、そこで彼女の動きが止まった。

 ぎゅっと抱きついたまま、沈黙が落ちる。


 ――おかしい。

 普段なら「今日はどんなことがあったの?」と、にこにこ問いかけてくるのに。


 「……リシェル? どうした?」


 小さな声が返ってきた。


 「……きらいにならない?」


 思わず内心で苦笑する。

 嫌いになんてなるわけがない。


 俺がどれだけ彼女のことばかり考えているか、知りもしないくせに。


 「なるものか。俺は、リシェルが大好きだよ」


 自然に口からこぼれた言葉に、リシェルの抱きしめる力が少し強まる。


 「……わたしも、だいすき」


 胸の奥が跳ねる。

 わかっている。彼女のいう「好き」と、俺の抱える「好き」が違うことくらい。


 けれど――その違いさえも愛しい。


 「でも、今日のルーク……いつもと違う匂いがする」


 不安げに顔を上げ、真っ直ぐ俺を見つめる。


 「……だれ?」


 その瞳に胸を締めつけられる。

 今、不安を抱いているというのに――その姿を可愛いと、嬉しいと感じてしまう俺は、本当に最低だ。


 「仕事でな、馴れ馴れしいやつがいて……抱きつかれただけだ。すぐに引き剥がした」


 「……ほんとうに?」


 縋るような視線。唇が小さく震える。


 「もちろんだ。リシェルがいちばん……いや、リシェルしかいない」


 まっすぐに告げると、涙が止まったようだった。


 「……よかった。ルーク、ずっといっしょ」


 「ああ、もちろんだ」


 そっと抱き寄せる。

 

 そして、俺の服を掴むリシェルの手が強くなる。

 離さない、と言うように。


 ああ、なんて幸福な時間だろうか。


 ――このまま、一緒に壊れてしまいたい。

やばい男ですみません。

次回よりリシェル視点に戻ります。

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