13、こんな感情抱いてはいけないのに(sideルーク)
こんな自分の状況すら理解していないような子を――殺せるはずがない。
気づけば、口が先に動いていた。
「ひとまず、ここは危険です。俺と一緒に行きますか?」
「うん、一緒に行く!」
王女はこくんと頷く。
俺は王女を抱え、そのまま横抱きにする。
(......軽い)
あまりにも軽すぎて、胸の奥がざわついた。
そして、魔法陣を描き――俺の住む家へと移動した。
「お兄ちゃんすごいね。これがワープ?」
「そうですよ」
「すごーい……! あ、これ……“うれしい”だ」
無邪気に笑う王女。
その横顔を見た瞬間、ふと現実に引き戻された。
(……俺は、何をしている)
衝動のまま連れてきてしまった。
本来なら、あの場で殺すはずだった相手を。
だが、もうそんな気持ちにはならない。
バレたらまずい。俺も、王女も。
途中で抜けたことも、どうにかなるだろう。
だが――
この選択は、あまりにも危うい。
それでも。
「……守らなきゃな」
その言葉は、誰に向けたものだったのか、自分でもわからなかった。
***
こうして、俺は王女と隠れるように生活を始めた。
年齢は十歳、名前はリシェルというらしい。
調べてみると、彼女は妾の子であったことがわかった。
だからあのように冷遇されていたのだろう。
不幸か幸いか、本人にその自覚はまったくない。
(あいつらは、本当に……悪魔だな)
胸の奥に怒りが湧き上がる。
「ねぇ、ルーク!今日は魔法を見せてくれるっていったよね!」
「ああ、約束したな」
リシェルから「敬語はやめて」と言われ、今は自然に砕けた口調で話している。
まあ、もう王女ではないのだから、問題はない。
俺は手に力を込め、幻想的な光の蝶を作り出した。
キラキラと光る蝶たちは、部屋の中をふわふわと舞う。
「わぁ……きれい……!」
リシェルの目が、きらきらと輝く。
「ありがとう、ルーク!」
「楽しんでもらえたか?」
「うん! これが“たのしい”なんだね!」
嬉しそうに笑うその顔に、胸の奥が締めつけられる。
――守りたい。
そう思うのと同時に。
(……俺が与えている)
そんな感覚が、どこかにあった。
***
ある日、俺は街に出かけた。
……リシェルに告げずに。
「寂しい」という感情を教えるためだ。
もちろん、ひとりにするのは危険だ。
だから家には魔法で結界を張り、状況は常に把握できるようにしている。
誰も襲うことはできないだろう。
用事は特になく、ただ時間の経過を確認するように街を歩き、家へ戻った。
ドアを開けると、リシェルが飛びついてきた。
「ルーク......! どこ行ってたの......!」
涙でぐすぐす鼻を啜る音が聞こえる。
「わたし……ルークがいないって気づいて……涙が止まらなかったの……」
震える声。
その言葉に、胸の奥が強く揺れる。
「……ごめん」
気づけば、強く抱きしめていた。
(......泣かせてしまった)
だがそう思うのと同時に、この状況を喜んでしまっている自分に気がついた。
とりあえず、今は説明しなくては。
「でもそれが......“さみしい”という感情だ」
「……これが?」
「……ああ」
「いや……っ」
リシェルの指が、ぎゅっと服を掴む。
「さみしいの、いや……」
そして。
「ずっと一緒にいて……!」
縋るような瞳で、俺を見上げた。
――ぞくり、と背筋が震える。
(……まずい)
こんな感情、抱いてはいけない。
わかっている。
わかっているのに。
リシェルが俺を求めるたび、その言葉が、どうしようもなく心地いい。
「ずっと一緒にいて」
その一言が、頭の奥に残り続ける。
――なら。
そうさせればいい。
俺の中に、仄暗い感情が生まれた瞬間だった。
次回もルーク視点!
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