表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された悪役令嬢に、無口な養蜂家が蜂蜜で求婚してきます  作者: 夜凪 蒼


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/31

第6話「パンに塗りすぎ」

マーヤに会ったのは村の井戸端。


「あーっ、あんたが丘の蜂の人!」


 声が大きい。朝の村に響いて鶏が鳴く。


「マーヤです、パン屋の! 籠届いた?」


 やっぱりパン屋の人。お礼を言うと「でしょー!」と胸を張る。赤毛のお団子頭で、エプロンに粉がついたまま。三分で私の情報をかなり引き出されてしまった。


「元伯爵令嬢? うそー」


「本当です」


「全然見えない。爪の間に蜜蝋ついてるし」


 慌てて手を引っ込める。


「いいのいいの。で、蜂蜜いつ採れるの?」


「もう少し先です」


「待ってる! 蜂蜜パン作りたいの!」


 その日のうちにマーヤは養蜂場まで登ってきた。パンを両手に抱えて。


「丘きっつ……」


「蜂は高い場所が好きなんです」


「蜂の都合かー」


 焼きたてパンを広げて「で、蜂蜜は?」と目を輝かせるマーヤに根負けした。


「……少しだけなら」


 巣枠の巣蓋をナイフで薄く削ると、蜜蝋の下から黄金色の蜂蜜がとろりと顔を出す。甘い匂いが広がった。花の香りが凝縮されたような、深くて丸みのある甘さ。


 マーヤがパンにつけて食べた。三秒の沈黙。


「……おいしい」


 いつもの大声じゃなくてしみじみとした小声。


 私も塗って食べる。ライ麦の素朴さと蜂蜜の華やかさが合わさって、追放されてから初めて「美味しい」としか言えない味。


 気づいたらパンの上に蜂蜜を追加していた。


「塗りすぎじゃない?」


「これくらいが普通です」


「パンが見えないよ」


 前世からの癖だ。父にも母にも言われ続けて直らなかった。


「蜂蜜はたっぷり塗るものです」


「それパンが添え物になってない?」


 否定できない。


 二人で巣箱の前に座って食べた。蜂が周りを飛ぶけどマーヤはすぐ慣れる。


 帰り際、マーヤが真剣な顔で言った。


「まとまった量が採れたら、うちのパンに練り込んで村で売りたい。この村、名物がないの。でも蜂蜜パンならここだけのものになる」


 私を助けたいんじゃなく、自分の店を特別にしたいという欲。いい。その方がいい。


「蜂が安定したら、ちゃんと量を採ります」


「約束!」


 丘を駆け下りるマーヤを見送って、空の器を見つめる。「少しだけ」のつもりが結構食べてしまった。


「ごめんね。次はちゃんと残してから採るから」


 ――蜂蜜パン、楽しみ。その前にハインツさんの内検が明後日。ダニの十二番、良くなっていれば。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ