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第59話:包丁を研ぐ夜。

夕刻。

屋台の開店準備が終わった。

外に出て、伸びをする。今日もこれから一仕事。常連客の顔が浮かんだ。

俺は師匠から受け継いだ包丁を取り出した。俺の大事な、大事な、一本の包丁。

俺は、屋台開店前に、その包丁を研ぐのを習慣にしていた。

静かに、ゆっくりと、包丁を研ぐ。

研ぐたびに、師匠の顔が浮かぶ。修行時代を思い出す。

――師匠、俺は、あの頃より、少しはマシになりましたかね……

俺は、記憶の中の師匠に問いかけた。

師匠は何も答えなかった。ただ、師匠の笑顔が、頭の中に浮かんだ。

言葉なき笑顔。俺にとっては、それで十分だった。

――今はそれでいい。答えは、きっと、お客さんが教えてくれる。

俺は包丁を研ぎ終えると、水で洗い流した。布巾で丁寧に水分を拭き取る。

研ぎ上がった包丁をかざした。綺麗な刃紋が浮かび上がる。

今日も綺麗に研げた。これが出来ている限り、まだ、俺はやれる。俺はまだ「料理人」でいられる。

俺は、そう思うのだった。


次回予告:

時が巡る。俺は、屋台を続けていた。

今の俺の手にあるもの、それは、何物にも変え難いものだった。

次回、最終回。


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