第57話:静かな幸福。
常連客も帰り、そろそろ店じまいをしようと思っていた夜更け。
久しぶりに、オヤジさんが屋台を訪れた。
「オヤジさん、腰の方は大丈夫なんですか?」
俺は声をかける。オヤジさんは、腰を痛めていたのだ。
「『寝ているばかりじゃ、余計悪くなる』と、医者に言われたんでな。ま、リハビリの一環さ」
そう言って、屋台の席に腰を下ろした。
「……お客さんは?」
「さっき、常連さんが帰ったところです。今日は、この感じだともう終いですね」
俺はオヤジさんに答えた。
「じゃ、残りもんで、何か肴を作ってくれ。あと日本酒を頼む」
「はい、わかりました」
オヤジさんの注文を受け、俺は調理に取り掛かった。
ゆっくりとした時間が流れた。お客さんが来る気配もない。
俺は、出来上がった肴を、オヤジさんに差し出す。
「はい。メバルの煮付けです。最後の一尾が残ってました」
オヤジさんが箸を取り、煮付けを一口、口に運ぶ。
「……この肴、悪くないな……いい感じの煮付け具合だ」
「……お褒めいただき、ありがとうございます」俺はオヤジさんに頭を下げた。
「……褒めてないよ。今のおまえさんなら、もっと上手にできるだろ」
オヤジさんは、そう言って、日本酒を傾けたのだった。
屋台の夜が、静かに更けていった。
次回予告:
オヤジさんからの意外な言葉。
それでも、俺は、この屋台を続ける。




