第55話:それでも屋台を続ける理由。
今日も、屋台営業が終わった。
屋台を畳み、オヤジさんに売り上げ報告し、帰路に着く。
部屋に帰ると、ベッドに横になった。
俺は、ベッドに横になりながら、思いを巡らせた。
かつての自分。そして、今の自分。どちらが幸せだったのだろう、と。
以前の職場では、ホテルの宴会場で、1000人規模のパーティの料理の総責任者だった。そして、そのパーティの客を満足させていた。
今は、屋台で、一人切り盛りし、常連客や、一見さんに直に料理を振る舞っている。
あの頃も、やりがいはあった。充実感はあった。
しかし。
今の屋台は、あの頃よりも充実している。
お客さんの息遣いが聞こえる。正直な感想が聞こえる。社交辞令も、お為ごかしも何もない。
ただただ、正直に「俺の料理」を評価してくれる。
「今日も美味かったよ」
その一言が、俺を奮い立たせる。
ホテル時代に受けた、議員先生の褒め言葉よりも、何倍も何倍も、俺の心に響いていた。
誰も気取らない。誰も遠慮しない。
その中で、自分の腕が、さらに磨かれる感触がある。
何よりも、
「俺は、お客さんの笑顔を見るのが、好きなんだ」
自然と、思いが口から出ていた。
そう。そうなんだ。
俺の魚を食べて微笑むお客さん。日本酒をあおった後に見せるお客さんの笑顔。
それこそが、俺の望むものだったのだ。
明日も、屋台の営業がある。
俺は、お客さんの笑顔を思い出しながら、眠りにつくのだった。
次回予告:
久々の休日。俺は部屋を掃除する。
それとともに、過去を捨てるのだった。




