第54話:季節が、ひとつ巡った。
冬も終わりが近づいてきた。たが、まだまだ、夜になると寒い。
「やってるかい?」常連客が暖簾を上げた。
「はい。いつもありがとうございます」俺は答えた。
「……まだまだ、夜半は冷えるねぇ……日本酒の熱燗と……今日のおすすめはなんだい?」
「今日は、たけのこの土佐煮ですね」
「たけのこかい。そんな季節かい」
「えぇ。残念ながら、白子ポン酢はもう終いですね。まだ夜は冷えるので、熱燗は出しますけれど」
「季節ごとに、美味しいものが食べられる。日本の四季ってのはそういうもんだ」
お客さんのその言葉に、俺は頷いた。
「……そうですね。美味しい料理を提供できるよう、頑張らせていただきます」
「……なんだい、まだそんな堅っ苦しい言い方なのかい。お前さんは」
「すいません、どうにも抜けない癖ですね、これは」
そういうと、常連客は笑うのだった。
これから春に季節は移ろう。春が旬の食材はたくさんある。
鰆、しらす、山菜、アスパラガス、新玉ねぎ。いろんな食材が思いつく。
それらを料理することは、俺の楽しみでもあった。
さて、どんな料理を作って、お客さんを笑顔にしようか。
俺は、自然と笑顔になるのだった。
次回予告:
俺は、部屋で、思いを巡らせた。
かつての自分。そして、今の自分。どちらが幸せだったのだろう、と。




