第51話:俺の今いる場所。
あの日以来、ホテル関係者が、屋台を訪れることはなくなった。
ようやっと諦めてくれたか、と俺は安堵した。
これで、気兼ねなく、仕入れができる。下拵えができる。俺の料理を客に提供できる。
気がつくと、俺は鼻歌まじりで、屋台の開店準備をしていた。
ようやく、あのホテルのくびきから解き放たれた。そう実感できたのだろう。これまでのストレスが消え失せる感覚があった。
「どうしたい、店主。今日は、やけにご機嫌だね」
常連客に言われてしまった。気づかれるくらいには、表情に出ていたらしい。
「ようやく、重い問題が解決したもんで」
我ながら、軽い口調であった。
「最近、眉間のしわが酷かったもんな。解決して何よりだ。それじゃ、今日も、ご機嫌な酒と肴を頼むよ」
常連客の言葉に、俺は気持ちよく「承知しました」と答えるのだった。
「今日は、ヒラメの昆布締めとエンガワの炙りです。ちょうどいい頃合いのが手に入りまして」
俺は今日のおすすめを差し出した。
常連客は、今日のおすすめをつまむと、気持ちよさそうに、日本酒をあおる。
「今日も、美味いねぇ」
常連客の言葉が、胸に沁みた。
――やっぱり、ここが、この屋台こそが、俺の「居場所」なんだ。
改めて、俺は、そう思うのだった。
「やってるかい?」
別の常連客が暖簾を上げる。
「いらっしゃいませ」
俺は、気分よく、常連客を迎え入れるのだった。
次回予告:
常連客の何気ない一言が、俺の耳に届いた。
俺は、決意を新たにするのだった。




