第48話:元・婚約者の、取り返しのつかない後悔。
夜も更けた頃。
一人の女性が、路地裏の屋台を遠くから見つめていた。
豪奢な服装に身を包んでいた。しかし、どこかくたびれた感じの女性だった。
「ご馳走様。今日も美味しかったよ」
「ありがとうございました」
彼女の耳に、客と屋台の店主の会話が聞こえる。
屋台から出てきた客とすれ違った。その客の顔は、側から見ても幸せそうな笑顔だった。
――あんな嬉しそうな顔、私はしたことがあったかしら。
彼女は、思い出す。
彼の料理を食べていた頃、私もあんな風に幸せな笑顔をしていた。
あの人の料理は、そういう料理だった。
でも、もう、あの人の料理を口にすることはできない。それは、目の前にあるのに、それは拒絶されてしまった。
全ての原因は、自分だった。自分の判断だった。
――でも、あの時の状況では、あの判断が正解だった。最も合理的な選択だったはずなのに。
「……なぜ、誰も止めてくれなかったの……」
彼女は呟いた。誰かが止めてくれれば、今、私は、あの屋台の輪の中にいたかもしれなかったのに。
しかし、それは、もはやあり得ない現実であった。
屋台の客の楽しげな笑い声が、彼女の耳に届く。
幸せそうな笑い声。そこに入れない自分。
後悔しても、後悔しきれなかった。
彼女は、静かに踵を返した。
そうして、彼女は、屋台から遠ざかっていた。
夜の街の中に消えていった彼女が、その後、どこへ行ったのか、知るものはいなかった。
次回予告:
いつもの屋台。いつもの風景。
そこに突如現れた男。それは、俺の弟だった。




