第41話:弟の「完璧な計画」が破綻した理由。
ホテルの厨房。
社長のテコ入れもあって、厨房には、腕のいい料理人が集まっていた。
これを元に、料理の質改善、そして、結果としてのホテル経営の立て直しが実行できる。そのはずだった。少なくとも、総料理長は、そう考えていた。
社長から指示された「改善プラン」を、料理人たちに説明をする。
「この厨房の料理の味が回復すれば、ホテル経営も建て直せるんだ。皆、気合を入れて料理に取り掛かってくれ」総料理長は、料理人たちに向かって声を上げた。
しかし、また一人、また一人と、ホテルの厨房から、腕の立つ料理人が去っていった。このホテルの「格式」を知っている古株から辞めていった。それでは、「料理からホテルを建て直す」「料理人を教育する」プランが崩れてしまう。
総料理長は叫んだ。
「辞めるな!辞めるんじゃない!待遇が不満なら改善する!給料だって上げる!今が勝負どころなんだ、辞めないでくれ!」
「……待遇の問題じゃないんですよ」辞めていく料理人の一人が言った。
「……こんなホテルのこの厨房で腕を振るうことに意味を見出せないんですよ。前総料理長の頃の方が、料理人として『仕事をしている』という充実感があった。今の厨房にはそれがない。辞めるには十分な理由です」
そう言い残して、また一人、料理人がホテルの厨房を去っていった。
今の厨房に残っているのは、給料目当ての「ただの」作業員だけだった。料理への情熱はどこにもない。
この実情を、社長を理解していなかった。
「人員が減ったのならば、高待遇で補充しろ。そして『効率』をあげろ。最短距離で現状を打破しろ」
その社長の言葉からは、「料理は効率だけでは美味しくならない」という視点が完全に欠落していた。
しかし、総料理長は分かっていた。自分には、この厨房を元に戻す力はない。
――あの人なら、どう打開するだろう……
総料理長は、前総料理長の顔を思い浮かべるのだった。
――俺が頑張っても、この厨房を救えはしない……でも、あの人なら、きっと変えられる。
そのことを社長に提言するくらいなら、俺にもまだできる。最後の一手だ。総料理長はそう思うのだった。
次回予告:
社長と元・婚約者の誤算。
その結果を、俺は知るよしもなかった。




