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第40話:崩れ始めた、あの場所。

夕刻。今日も俺は、屋台の開店準備をしていた。

そこに、元・副料理長が、また、俺の前に現れた。

何の用だ、と俺が口を開こうとした時。

「社長を口説いてきました」元・副料理長が言い放った。

「給料も、待遇も、あなたの望むままです。それを条件として、提示します。ホテルの総料理長として戻ってきてください」

元・副料理長の目は、真剣だった。悲しいくらいに真剣だった。

しかし、その条件を聞いても、その目を見ても、俺は、首を縦に振ることはなかった。

「前にも言ったが」俺は告げた。「俺は、この屋台の料理人。それが今の俺で、俺の全てだ。あのホテルの総料理長の椅子なんて、全く興味はない」

「あなたに戻ってきてもらわないと、ホテルがなくなるかもしれないのに、ですか!」

「……その責任は、社長の経営手腕の問題だろ。俺の料理のせいにするのは、責任のすり替えだ」

俺はため息をついた。

「社長に伝えとけ。全ての責任は、お前の経営方針・手腕の問題だ、ってな」

そう言って、俺は、屋台の開店準備に戻った。あのホテルのことなど、もうどうでも良かった。

その時、常連客の弁護士が現れた。俺と元・副料理長の間に入る。

「あなたですか。店主に不当に付き纏っている人は。これ以上付きまとうと、法的手段を選択する場合があります。今日以降は、この私、この店の顧問弁護士を通じて、そちらの要求を提示してください」弁護士は、元・副料理長に告げた。容赦のない言葉だった。

元・副料理長は、その言葉に、明らかに怯んでいた。

俺は、元・副料理長を気にすることなく、屋台を開店した。

元・副料理長は、いつの間にかいなくなっていた。ホテルに戻ったのかどうかもわからない。それも、俺にとっては、もう、どうでもいいことだった。

「助かりましたよ、先生」

そう言って俺は、弁護士先生に、お酒を差し出したのだった。

「ここに座っているときは、『先生』はなしでお願いしますよ。私はこの店のただの常連。それでいいんです」そう言って、弁護士──口調が固い常連客──はゆっくりと酒を飲むのだった。


次回予告:

ホテルの厨房。総料理長の発破が飛ぶ。

しかし、その思いは、空回るだけだった。


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