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第32話:「効率の鬼」が理解できなかったもの。

ホテルの会議室。

社長の前に、総支配人、接客部門長と総料理長が呼び出されていた。

「接客部門長、あなたの方はどうなっている。従業員の待遇改善を行なったはずだが、接客に関するクレームが減っていない」

接客部門長は、ハンカチで額の汗を拭った。

「……はい。従業員の待遇は改善しました。しかし、指導・教育に関する十分な時間が取れません。結果、十分な教育が施されないまま、接客作業を行なっているのが現状でして……」

「指導・教育に関しては、アウトソーシングして、短期的に解決するはずでは?」

「……その予定だったのですが、そのアウトソーシング先の教育クオリティが低く、指定された時間内で、十分な教育成果が得られていません……」

接客部門長は、再び汗を拭った。

「……予定通りにことが進んでないのは、私の責任かね?」社長は言い放った。

「至急、代替となるアウトソーシング会社を選定しろ。現在の会社には、私の方から、改善要求をしておく。契約解消になったときにすぐ対応できるよう、準備をしておけ」

続いて、社長は、総料理長へ向き直った。

「依然として、食事に対するクレームが続いている。レストランの売上もガタ落ちだ。理由を説明できるかね?」

総料理長は黙っていた。額から汗が流れる。

「総料理長、あなたの手腕では、現状をどうにかすることは、出来ないのか」

社長が、総料理長を問い詰める。

総料理長は、答えられなかった。

空気が凍った。

「……打開策は、ないのかね?」

「……一つだけ、確実な方法があります」総料理長は答えた。

「では、それを実行すればいい。なぜ、実行しないのかね?」

「……それは……その方法は、前総料理長に戻っていただき、厨房を以前の状態に戻すことだからです。社長は、それを受け入れられますか?」

「……馬鹿げた考えだ……だが、現状、それしか方法がないのかね?」

社長の言葉に、総料理長は頷いた。

「……検討するか。だが、それを唯一の解決策とはしない。総料理長の力で、現行プラン通りに売上回復策を実行してくれ」

社長の言葉に、総料理長は頭を下げた。

「総支配人」社長は総支配人を見た。

「状況の打開策は、まだ提示できないのかね?君は、現場の総責任者だぞ?」

「……色々検討しておりますが、決定打となるような打開案はまだ……」

「何も、一発大逆転を狙う必要はない。小さな積み重ね、小さな『効率化』をすることで、全体を底上げすることも出来る。そういった視点から、何か思い浮かばないのかね?」

「……でしたら、社長。過度な『効率化』をやめ、余裕のある環境作りを目指したいのですが……」

「効率化を止める?つまりは、総支配人、『私の方針が間違いだ』と、言いたいのかね?」社長の目が冷たく光った。

「……いえ、そういうわけではございませんが……」総支配人の声はしどろもどろになって消えいった。


三人が退出した会議室で、社長は、深くため息をついた。

──私の手法、プランに間違いはない。何度も検証した結果としての「最適な効率化」だ。なぜ、彼らは、その通りの成果を出せないのか。彼らには、私のプランを実行する能力がないのか……

社長は、自身の掲げた「効率第一主義」の結果が、今の状況を生み出したことに気づいていなかった。

いや、気がついていたが、それを認めたくなかったのかもしれない。

彼にとって、「効率の最大化」は、唯一の「確実な成功の道」であったのだった。


次回予告:

元・婚約者が、俺の前に現れた。

場末の屋台に姿を見せた彼女の真意は──


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