表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/60

第20話:俺がいなくなった厨房で、何が起きていたのか。

ホテルでは、会議が行われていた。そこには、社長と、総料理長の姿があった。

「……ホテルの料理に関して、クレームが増えている。理由を説明できるかね?総料理長」

社長の冷たい声が響いた。

ホテルの料理にクレームが届き始めると同時に、ホテルの訪問客数も減ってきていたのだった。

「……正直に申し上げてよろしいですか?」総料理長の言葉は震えていた。

「構わんよ。むしろ、誤魔化されると、根本的な解決にならない。正直に言いたまえ」

社長は告げた。

総料理長はその言葉に、意を決した。

「仕入れ食材の質が落ちています。また、AIスープやカット野菜が、逆に、料理の味を落としています。また、この時期独特の、微妙な寒暖差による味の修正を出来る者が、今の厨房にはほとんどいません」

「……今までは出来ていたのに?なぜ、出来なくなった?」

「料理人の修行を、育成を、『非効率』として排除してしまったからです」総料理長は言った。その声はか細かった。それでも、総料理長は言葉を継いだ。

「前総料理長であれば、厨房の全員に、徹底してそれを叩き込んでいたでしょう。それがなくなった結果、『どう調整すれば良いのか』を覚える機会が失われたのです」

「君には、それを他の人間に教育する能力はないと?」

社長は冷たく問い詰めた。

「それを任せられるから、君を総料理長にしたのだと思ったのだが?」

「……それは……」総料理長は口ごもった。

「そもそも調整が必要? AIのレシピ通りにやれば、常に100点の味が出るはずだ。寒暖差などという『主観』を料理に持ち込むから失敗するんだ」社長は言い放った。

「……今からでもいい。君の力で厨房を修正したまえ。仕入れ食材の件は、こちらで確認し、元のクオリティに戻すよう働きかける」

社長の言葉は、相変わらず、冷徹なままだった。

総料理長は、顔をこわばらせて、会議室を後にしたのだった。


「……あんたの肴は、塩加減が絶妙だねぇ」常連客が言った。

「何か、コツとか、あるんかい?」

「季節柄、この時期は、食べる側の味覚が安定しないんですよ」俺は答えた。「天候とか温度とか湿度とか、その日によってコロコロ変わりますからね。それを感じ取って、その日ごとに、塩加減や味を調整するんですよ」

「へぇ、覚えるのはなかなかに大変そうだな」客は感嘆していた。

「そうですね。私も、師匠に怒られながら、なんとか会得しました。それでも、まだまだ、修行中、ですけどね」

そう言って、俺は、客の前に肴を出したのだった。

客は、いつものように一口つまむと、日本酒をあおる。

「今日も美味いねぇ。先代と良い勝負してるよ」

「いえいえ、私なんて、オヤジさんと比べたら、まだまだです」

――完成したレシピなんてものは、存在しない。客が『美味い』と思った瞬間が、その日の完成形なんだ。今日、成功しても、明日はわからない。日々修行なんだ。

俺はそう自分に言い聞かせるのだった。

屋台の夜は、今日も更けていった。


次回予告:

ホテル経営の悪化。思い通りにいかない社長の怒りがこだまする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ