第18話:数字では測れない「一杯」の価値。
夜。俺は、いつものように屋台を開けた。
いつものように、常連客が顔を出す。
常連客が、酒を飲みながら、こんなことを言った。
「この店、ネットとかで宣伝しないのかい?」
俺は、ふと、この間やって来た二人の若者の言葉を思い出した。
「……ネットで宣伝、ですか……」
「そう。常連客だけじゃ、経営も厳しいんじゃないかと思ってね。俺らにとっちゃ、この屋台が畳まれるのも嫌なんで」
常連客は、一口、酒を飲んだ。
「ネットに料理の写真を載せたり、盛り付けを写真映えするようにしたり、色々、集客する余地はあると思うんだよね」常連客が話を続ける。
「この屋台なら、ネットの口コミポイントも、高得点間違いないだろうし……」
「そうですか」俺は言葉を挟んだ。
「ただ、ご覧の通り、手狭なんで。お客さんが増えたら、皆さんへの気配りや、料理の質も落ちるかもしれません……」
俺の言葉に、常連客は、口を閉じた。
「……それを考えると、今のところ、ネットとか宣伝する気はないですね。皆さんのおかげで、当面、店を畳むこともなさそうですし」俺は笑った。
「お客さんだって、ここの料理の味が落ちたら、離れてくでしょう?まずは、そうならないように、日々精進する方が、今の私にとっては、重要事ですよ。オヤジさんから店を任されて、まだ日も浅いですし」
そう言って、俺は、常連客に、酒の肴を出すのだった。
「……それもそうか……確かに、この屋台の味が落ちるのは、考えたくないな……余計なこと言って、すまんかった。忘れてくれ」
常連客は、そう言って、肴をつまみに酒をあおるのだった。
屋台の夜は、いつものように更けていくのだった。
次回予告:
あのホテルの噂が、耳に入る。
俺の過去は、まだ完全には終わっていなかった。




